筆者は、清華大学大学院(北京)に招聘され、非常勤講師として講義をしたこともあり、中国経済を多面的に勉強してきました。また、筆者の書籍が中国人民銀行によって中国語訳されて教科書として採用され、中国当局に招聘され北京で特別講義も行いました。昨年には、中国人民銀行による金融政策についての政策提言論文コンクール(人民銀行に口座を持つすべての世界中の金融機関が提出しなければならない)で、外国人としては最上位の3位に入賞しました(日本人としての入賞は一人だけ、同じく3位にシティバンクのエコノミストが入賞していました)。最近では、とくに通貨としての人民元を研究しています。

他国の経済政策をよく勉強している中国

 中国は先進国の経済政策をよく勉強しており、多方面でその良さを取り入れています。以前(日中関係悪化前)ある官庁で仕事をしているときに、中国からの研修生の方がいて、彼は通貨政策と土地政策を学んでいるとのことでした。中国の状況について聞いたところ、通貨政策では「米国の影響で円高になって経済に悪影響があった」そして「土地政策では総量規制は中国はやらない」と言っていました。さらには、日本は農業の生産調整など計画的な政策を実施していて、安定している政府だと認識し、特に日本の官僚制度を学んでいるとのことでした。

 実際、中国の経済政策は様々な国の政策をうまく取り入れているように見受けられます。たとえば、発展途上国(新興国)として工業化を進めていますが、農村地帯の労働者を沿岸部の工業地帯に送り込んでいることで、農村部は男性不足や過疎化が進んでいるようです。これは、若い労働力を地方から集めた戦後の日本と同じではないでしょうか。後ほど解説しますが、通貨のオフショア化の進め方は日本から、多数の通貨を組み合わせた通貨バスケット制はシンガポールから、また通貨の流通域の拡大(国際化・基軸通貨化)は米国から学んで導入しているように考えられます。

通貨政策には“水平型”と“垂直型”がある

 “通貨”は筆者の専門の一つですが、なかなか一般の方には整理が難しいのかもしれません。通貨政策には、筆者が整理して名づけましたが“垂直型”と“水平型”があります。変動相場制とか固定相場制とか、為替レートの上下の動きをコントロールするのが“垂直型”で、国際化や基軸通貨化など、通貨の流通域を広げていくのが“水平型”です。ここを分けて考えることが大事になります。

 ちなみに、日本円の「円」ですが、もともとは「圓」という字を書きました。この「圓」をよく見ますと、国構えの中の「員」を簡単にしたのが、人民元の「元」です(発音も日本と同じ:ゲンとは言わない)。また韓国のウォンは漢字では「圓」の字を使う。つまり、円も元もウォンも、もともとは同じ「圓」だった可能性が高いのです。ちなみに、現在の通貨も人民元は「¥」、日本円も「¥」です。ウォンは発音が違うためWをベースとした「?」を使っています。つまり、東アジアでは過去に「圓」という統一通貨があった可能性があるのです。