鉄道は、独自のローマ字表記を持っている

 この回は実は、第104講 鉄道会社の“ひそかな工夫”を見つけよう、の後編です。第104講では、駅構内でのひそかな工夫に着目しました。「降り乗り」とか「ポツ」「ポツポツ(にぽつ、と読む)」とか。

 今日のテーマは「ローマ字表記」です。ヘボン式が有名で、有楽町(ゆーらくちょー)なら「Yūrakuchō」と書きます。「ū」「ō」の上についているのは長音符です。

 最近は、駅でも路線名や駅名を含め、ローマ字表記が溢れています。

 あれ? なんかおかしいですね。神保町(じぼーちょー)の「ん」が「m」に?

・神保町 → Jimbōchō
・新宿御苑前 → Shinjuku-gyoemmae
・日本橋 → Nihombashi
・新橋 → Shimbashi

 これは、ヘボン式特有のローマ字表記です。「b」「m」の前に来る「n」を「m」に変えています。より英語の発音実態に近い、といわれています。

 英語が混じっていればそこは英語表記にします。「天王洲アイル」ならTennōzu Isleといった具合です。これは「鉄道式」とも呼ばれます。その混在の是非はありますが、戦前から鉄道省(現 国土交通省)が独自につくり上げた方式(*1)なのです。

道路の案内標識は、英語そのものを目指している

 地下鉄から地上に出てみましょう。駅の敷地内までは鉄道式ローマ字表記ですが、そこを一歩踏み出すと、別の世界が拡がります。

 いわゆる、道路の案内標識(*2)ですが、ここでは今、英語化がどんどん進んでいます。「2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けたおもてなし大作戦」の一貫だそうです。国会正門前交差点のローマ字表記は「Kokkaiseimonmae」から「The National Diet Main Gate」となりました。でもdietを国会と理解できる人は、英語圏でも一部に限られます(*3)

 それはともかく、「神保町駅」を指し示す案内標識はこうなっています。

「神保町」は「Jinbocho」で、長音記号はなく、bの前でもnはnのままです。さらには、「駅」のことはekiではなくSta.とStationを略して使っています。つまり英語そのものなのです。

 こちらも管轄は国土交通省なのですが、もちろん旧鉄道局との摺り合わせなど、あるわけもありません。鉄道式と道路式が統合されるのは、きっと次の次のオリンピックの頃でしょう。

*1 1927年にヘボン式をベースに策定された。
*2 一般道路の案内標識には、(1)目標地までの経路を案内する「経路案内」、(2)現在地を示す「地点案内」、(3)待避所・パ-キングなどの附属施設を案内する「附属施設案内」の3種類がある。
*3 国会に対して通常、〔米国〕Congress、〔英国〕Parliamentを使う。