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医療・介護 大転換

「高齢者虐待マンション」問題が映す都心部介護の深刻

制度矛盾が北区の「拘束ホーム」を生んだ

浅川澄一 [福祉ジャーナリスト(前・日本経済新聞社編集委員)]
【第25回】 2015年3月4日
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 自宅介護が難しくなった高齢者の行き場がなくなりつつある。介護保険の施設は少なく、需要を満たさない。とりわけ地価と人件費が高い首都圏ではその不足が深刻だ。東京都北区で発覚した高齢者住宅での虐待問題は氷山の一角に過ぎない。介護保険制度の保険者として自治体の責任が問われる。都心部と地方の違いをしっかり組み入れた制度の見直しが厚労省にも迫られている。

「虐待」と結びつかない
理想的な信念なのに…

 東京都北区内の高齢者向けマンションでベッドに拘束される入居者の実態が明らかになり、東京都は2月17日に介護保険法に基づき改善を勧告した。勧告を受けたのは、同住宅にヘルパーを派遣している訪問介護事業所を運営する医療法人社団「岩江クリニック」(岩江秀和理事長)。北区も同日、高齢者虐待防止法に違反するとして岩江クリニックに改善を指導した。

 その日のNHKや民放テレビには、ベッドに横たわる高齢者が指の自由が利かないミトン型の手袋を着用したり、ベッド柵にひもで体を固定される姿が映し出された。部屋の外からドアが開かないようなつっかえ棒もあった。

 問題のマンションは3棟。同クリニックと提携するそれぞれの不動産会社が、2002年、07年、11年に同クリニック近くに開設し、合計147室を持つ。同クリニックのホームページによると、北区西が丘に建つ4階建て、84室のマンションは約7.4m2から約10m2の部屋の家賃が3万円。

 このほか、「食費が上限3万円、水光熱費1万円、生活支援サービス3万円、医療・介護の一部負担金が標準で5万~5万7000円で、1ヵ月12万~15万7000円」とホームページにある。医療保険と介護保険の負担はそれぞれ個人差が大きい。それらを除き、食事を上限まで、おそらく日に3食頼むと入居者が1ヵ月に支払うのはちょうど10万円となる。

 東京都内のサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)やグループホームよりは断然安く、個室ユニット型の特別養護老人ホームと比べても大差ないだろう。相当に低価格である。

 入居者の多くは認知症を患い、意思疎通が不十分。家族がこれらマンションを探して入居に至っている。

 同じホームページの「よくある質問」では、入居者は「北区の生活保護者に限られています」とある。家賃が3万円であれば、東京都の生活保護受給額の家賃額を下回り入居できる。

 同クリニックは、「在宅医療に力を入れています」とホームページで宣言し、在宅療養支援診療所として活動。確かに、訪問看護ステーションを1997年に、ケアマネと訪問介護の各事業所を2000年、02年にはデーサービスを開設し、在宅サービスと連動させてきたことがうかがえる。

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浅川澄一 [福祉ジャーナリスト(前・日本経済新聞社編集委員)]

あさかわ・すみかず/1948年2月東京都中野区生まれ。東京都立西高校から慶應義塾大学経済学部に。1971年日本経済新聞社に入社。小売り・流通業、ファッション、家電、サービス産業などを担当。87年に月刊誌『日経トレンディ』を創刊、初代編集長を5年間勤める。93年流通経済部長、95年マルチメディア局編成部長などを経て、98年から編集委員。高齢者ケア、少子化、NPO活度などを担当。2011年2月に定年退社。同年6月に公益社団法人長寿社会文化協会常務理事に就任。66歳。

 


医療・介護 大転換

2014年4月に診療報酬が改定され、ついで6月には「地域医療・介護総合確保推進法」が成立した。これによって、我が国の「医療」「介護」大転換に向けて、第一歩が踏み出された。少子高齢化が急速に進む中で、日本の社会保障はどう大きく変革するのか。なかなかその全貌が見えてこない、医療・介護大転換の内容を丁寧に解説していく。

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