巴里の日本食 La Cuisine japonaise à Paris
【第3回】 2015年3月24日 加藤亨延 [ジャーナリスト]

懐石料理がパリで星をもらった理由

多様なスタイルの日本料理が林立するパリの和食事情。日本国内と遜色ないレストランから、日本人の感覚からは日本食と呼ぶのに疑問符がつくような料理まで多様化している。このように一人歩きする現状に対し、オーセンティック(正統的)な日本料理を提供するレストランかどうか、現地一般消費者に「道しるべ」を与えるため、日本貿易振興会(JETRO)がフランスではじめた試みに「日本食レストラン推奨制度」があった。はたして“正統な”和食は必要なのか。現地での受け止め方は様々だ。

今ではあまり目にすることもない「日本食レストラン推奨制度」のステッカー

パリっ子に和食のイメージをいかに伝えるか

「レストラン選びに『日本食レストラン推奨制度』を気にしているフランス人はほとんどいない」

 現地で日本料理を扱う飲食関係者に、実際8年前に始められたこの制度の話を聞くと、誰しも口を揃えてこう答える。

 実際、8年前に始められたこの制度の日本が認める「正統」から離れていても、フランス人が心地よいと感じる店は、彼らにとって「通いたいレストラン」であり、日本と同じものを出していても心地よくない店は「通いたくないレストラン」だ。現地感覚に合わせ、和食がローカライズされ続けていくことは運命なのだろうか。

 このような中、日本料理の伝統を守りつつ、フランスで懐石料理を広めようと努めるレストランがある。2013年9月末よりパリで営業を始めた「奥田」である。和食の代表格ともいえる懐石料理をつくる奥田の目に、パリの事情はどう映ったのか。

 同店で現場を取り仕切る料理長・宮原瞬さんのお話しを中心に探って行こう。宮原さんはまず、オープン当初の苦労を語る。

オーナーの奥田透さん(左)とパリ「奥田」料理長の宮原瞬さん(右)

「現地化されたパリの和食は、私たちの見方からは日本料理ではありません。しかし、パリの人々にとっては日本料理でした。すし、鉄板焼き、焼き鳥が一緒にメニューに並ぶのが彼らにとっての日本食。『懐石』という言葉も通じない。懐石にすしは出ませんが、すしがないことを知ってお帰りになられたお客さまもいました。その感覚を変えることが難しかった」

 日本人にとっても、懐石は普段から気軽に口にできるような料理ではない。どのような品がどのようなタイミングで出てくるのかを知らない人も多い。しかし、フランス人が持つ懐石のイメージは、日本人の持つそれとは根本から異なる。料理以前のイメージギャップを埋めていく作業に翻弄された。

「懐石の流れをフランス人が胃袋として知らないことも課題でした。フレンチは突き出し(アミューズブーシュ)、前菜(アントレ)、魚や肉の主菜(プラ)、チーズ、デザートの順に運ばれます。当店の懐石は口取り、お椀、お造り、焼き物、煮物、炊き込みご飯、デザートで終わる。つまり習慣的にフランス人は、焼き物が出た時点で次はチーズかデザートだと胃が感じます。しかし実際は煮物と炊き込みご飯が残っているため食べられない。ゆえに日本ではやっていませんが、最初にメニューを見せて、こういう器の流れなのでお腹を調整してくださいと理解してもらっています」

春に合わせた「口取り」。お造りの包丁さばきはパリっ子の目に新鮮に映る
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加藤亨延 Kato Yukinobu

[ジャーナリスト]

1980年、愛知県生まれ。ロンドンの大学院にて公共政策学修士を修めた後、東京で雑誌、ガイドブック制作に携わる。世界各地で取材を重ねていくうちに、より現地の視点で発信したいと感じ、ロンドン時代から興味があったフランスへ。2009年からパリを拠点に、フランスを中心とした欧州事情を日本の雑誌などへ寄稿する。主なフィールドは日本・フランス・英国の比較文化・社会問題。


巴里の日本食 La Cuisine japonaise à Paris

 日本料理は、もはや日本人のものではない。パリの街を歩いていると、至るところで日本料理屋(Restaurant japonais)に出くわす。パリから郊外に出ても、日本料理屋は当然のようにそこにある。ブームじゃない。すでに日本料理はパリっ子にとって定番の選択肢だ。 

「巴里の日本食 La Cuisine japonaise à Paris」

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