もやしは「加工品」か、それとも「生鮮野菜」か──。じつはこれ、簡単そうで悩ましいテーマだ。

 総務省の定めた「日本標準産業分類」によれば、もやし生産業は「農業」に分類されている。ところが多くの場合、もやしは「加工品」として販売されているのだ。単体では利益を確保できず、「カット野菜」の一部として売られることも多いからである。

 そんななか、もやしひと筋56年。反骨の精神で業界に革命を起こしている生産者がいた。埼玉県深谷市でもやし生産業を営む飯塚商店の二代目、飯塚雅俊さん(51歳)だ。

「価格破壊」を通り越して
「価格消滅」へと向かうもやし

価格が20倍でも売れる、超高級もやしの正体飯塚商店「深谷もやし」の原料、ミャンマー産ブラックマッペ

 日本で最大数のもやし生産者を擁する工業組合もやし生産者協会のホームページによると、もやしの価格は平成に入ってからほぼ右肩下がりで、今やその平均価格は100グラムあたり14円から15円。実際にはこれより低い価格で販売されることも多く、このまま行けば「価格破壊」を通り越し「価格消滅」へと向かいそうな感じで推移している。そんななか、飯塚商店の「深谷もやし」は100グラムあたり約150円。一部の店舗では300円近くの値をつけて販売されている。

──2014年12月、「もやし生産者の窮状を知ってほしい」と業界団体がついに声明を発表しました。日本で生産されているもやしの8割強は中国産の「緑豆」を原料にしていますが、声明は円安に伴う原料費の高騰がきっかけだったようですね。

「僕に言わせれば、何を今さらという感じです。中国産の緑豆に関して言えば、10年前は1トンあたり約10万円でした。それが去年(2014年)は1トンあたり28万円。今年(2015年)はトンあたり35万円と3倍以上になっています。これだともう、国産大豆の価格と変わりません」

──緑豆の価格が上がったのは主に円安の影響ですか?

「それもありますが、中国国内でも緑豆を作る農家が減っているんですよ。どうせならもっと儲かる作物を作った方がいいということで、大豆の作付けを減らす農家が増えているのです。なので、国外にあまり出さなくなったと聞いています。

 もやしの原料となる豆は大きく分けて中国産の緑豆とミャンマー産のブラックマッペ、それと大豆があります。大豆のうち多くはアメリカ産で、在来種はごくわずか。豆を発芽させたものをもやしと呼びますが、古い豆だとうまく発芽してくれません。安い割に原料の質が最も問われるのがもやしなのです」