
ところが、気がついたら僕と友人は、ライスばかりを食べていた。お肉食べ放題よりもライス食べ放題のほうに、身体が先に反応してしまったのだ。制限時間が終る頃、肉は数きれしか食べていないのに、ライスだけでお腹ははち切れそうになっている。あのときは本当に、泣きたくなるくらいに悔しかった。
とにかく極貧時代。でも代官山に住んでいた。
誰もが聞く。なぜ代官山になど住めたのですか?
なぜかといえば、家賃が破格に安かったからだ。間取りは6畳と板張りの3畳間なのに、家賃は1万8000円。20数年前とはいえ、都心でこの家賃は普通ならありえない。
とここまで話すと、多くの人は同じような反応をする。ちょっと真顔になってから、「出るの?」と小声でつぶやくのだ。あるいは「墓地の隣?」とか。それはそれで楽しいかもしれないけれど、残念ながらどっちでもない。ただし、ちょっと変わったアパートではあった。
まず風呂はない。風呂どころかトイレもキッチンもない。共同の炊事場は1階にある。1階と2階には共同トイレがある。銭湯までは歩いて3分。だから不自由はしない。不自由はしないけれど、部屋の中にいてできることは限られている。
本を読んだり、眠ったり、レコードを聴いたり、夜中にハイニッカ・ウィスキーを飲むことはできるけれど、水を飲んだり、料理を作ったり、シャワーを浴びたりすることはできない。ついでに書けばドアノブがない。あるのだけどねじが緩んでいて握るとポロリと落ちる。だから鍵もかからない。1階と2階にそれぞれ20戸くらいの部屋があったけれど、住民は半分もいなかった。
代官山の駅からは徒歩でほぼ5分。駒沢通りの路地裏にあるそのアパート「東光苑」は、同潤会アパートとほぼ同じ時代に作られたアパートらしい。
ということは、建てられたのは大正末期から昭和初期にかけて。階段の踊り場には丸いステンドグラスの窓。壁は一部レンガ。僕の部屋の3畳間の床は板張りで、なぜか鉄製の頑丈そうな二段ベッドが据え付けられていた。
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