ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

米国は中国に民主化してほしくない?

加藤嘉一
【第48回】 2015年3月31日
著者・コラム紹介バックナンバー
1
nextpage
中国がかつての天安門事件を清算し、民主化することは、米国にとって必ずしもよいことではない?
Photo:jundream-Fotolia.com

「中国で稼いで中国を傷つける」
米国企業を牽制する中国の思惑

 「我々が絶対に許すことができないのは、中国で稼ぎつつ、中国を傷つけることだ」

 2014年9月10日、中国天津市で開催されたサマーダボス会議に出席した魯〓国家インターネット情報弁公室主任(閣僚級、〓の文字は火へんに韋)が、外国IT企業の中国市場での状況、特に中国政府による独占禁止法関連の調査に話が及んだ際にこう言及した。

 魯主任と共演していたのは、米クアルコム社のCEO、ポール・ジェイコブス氏だった。ジェイコブス氏が自社に対する中国政府の独禁法調査や多額の罰金に対して不満を漏らしたのを、「中国政府のインターネット上の管理はボトムライン管理(中国語で“底線管理”――筆者注)だ」と主張する魯主任が牽制したのだ。

 “ボトムライン管理”とは、「中国の国家利益と消費者の利益を守る全ての企業が中国市場に入ってくることを歓迎する」というものだという。魯主任は2013年度におけるクアルコム社の営業収入248.7億ドルのうち、中国市場における収入が123億元(49%)に達することを引用しつつ、冒頭の発言を放ったのである。

 ボトムライン管理――。

 最近になって始まったことではない。中国共産党政治においては随時・随所で見受けられる普遍的現象であり、内政・外交双方向での戦略を象徴している。

 内政では、中国共産党による支配やイデオロギーに根本から異議を唱える知識人に対する監視・拘束・封殺などが挙げられる。外交では、中国の国益、特に核心的利益を尊重しない外国指導者とは面談を拒否したり、徹底批判することなどが挙げられる。

 要するに、中国共産党が掲げる利益や面子を潰す輩に対しては徹底的に批判し、追い込み、締め出すという一貫したロジックである。本連載の核心的テーマである中国民主化という問題を考察していく上でも、このロジックが大前提になる。

 先日、ワシントンDCで中国政府を代表して米中サイバーセキュリティ交渉に参加してきた中堅官僚と、話をする機会があった。米中間のサイバーセキュリティ問題における相互不信構造の背景と解釈がメインテーマであったが、話が米国IT企業の中国市場における活動状況に及ぶと、これまで冷静沈着に論を展開していた同官は、感情的になって米国企業に対する不満をぶちまけた。

1
nextpage
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

加藤嘉一 

1984年生まれ。静岡県函南町出身。山梨学院大学附属高等学校卒業後、2003年、北京大学へ留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。北京大学研究員、復旦大学新聞学院講座学者、慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)を経て、2012年8月に渡米。ハーバード大学フェロー(2012~2014年)、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院客員研究員(2014〜2015年)を務めたのち、現在は北京を拠点に研究・発信を続ける。米『ニューヨーク・タイムズ』中国語版コラムニスト。日本語での単著に、『中国民主化研究』『われ日本海の橋とならん』(以上、ダイヤモンド社)、『たった独りの外交録』(晶文社)、『脱・中国論』(日経BP社)などがある。

 


加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

21世紀最大の“謎”ともいえる中国の台頭。そして、そこに内包される民主化とは――。本連載では、私たちが陥りがちな中国の民主化に対して抱く“希望的観測”や“制度的優越感”を可能な限り排除し、「そもそも中国が民主化するとはどういうことなのか?」という根本的難題、或いは定義の部分に向き合うために、不可欠だと思われるパズルのピースを提示していく。また、中国・中国人が“いま”から“これから”へと自らを運営していくうえで向き合わざるを得ないであろうリスク、克服しなければならないであろう課題、乗り越えなければならないであろう歴史観などを検証していく。さらに、最近本格的に発足した習近平・李克強政権の行方や、中国共産党の在り方そのものにも光を当てていく。なお、本連載は中国が民主化することを前提に進められるものでもなければ、民主化へ向けたロードマップを具体的に提示するものではない。

「加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ」

⇒バックナンバー一覧