祖国への自信を強める中国人留学生
フランシス・フクヤマ氏に共感したこと

「日増しに、あらゆる分野で深まっている米中交流が中国の民主化を促進する可能性についてどう思われますか?」

 2014年4月、米カリフォルニア州パロアルトにあるスタンフォード大学内で、現在同大シニアフェローを務める政治学者のフランシス・フクヤマ氏に聞いた。

 温和で気さくなフクヤマ氏が、少しだけ表情をこわばらせる。

「あまり楽観視はしていないのだろうな」

 私はふと感じつつ、フクヤマ氏の言葉を待った。

「20年前に米国に学びに来ていた中国の留学生は、自由民主主義を含め、米国の制度や価値観を信奉し、のめり込んでいった。しかし、時代は変わった。昨今における中国の発展を背後に、祖国の体制や発展モデルに自信を強めているようだ」

 なるほど。メイクセンス。

 私自身は20年前と現在という時間軸を持って、米国で学ぶ中国人留学生の米国観と祖国観を比較する術を持たない。しかし、フクヤマ氏が言わんとすることは理解できる。2012年8月に米国に来て以来、中国人学生と会話をする過程で、同様の感覚を抱いてきたからだ。

 ハーバード大学の学部生(経済学専攻)で、同大中国人学生会の幹部を務めるEさんとのやり取りを思い出した。

Eさん:「毎日のように中国から党幹部や企業家、学者がハーバードを訪問しています。私たちはその人たちに会いに行き、交流をし、将来に向けた人脈とするのです。中国は目覚ましい発展を遂げていますし、これから中国市場を無視した進路は考えられません。私の周りのほとんどの中国人が、同じ考えです。その意味で、ハーバードで学びながら、中国で影響力のある人たちとの関係がつくれるのはラッキーですし、大切にしたいと思っています」

筆者:「ただつながりが深くなれば、共産党体制に批判的になるのは難しくなりますね。実際、ハーバードを訪問するような企業家や学者は、体制のなかでも影響力を持っている。言葉は悪いですが、体制に取り込まれているのですから」

Eさん:「なぜ体制に批判的になる必要があるのですか? 共産党は頑張っているじゃないですか? 上手に付き合えばいいじゃないですか? 私たちのような若い世代がいくら体制を批判したところで、共産党体制は崩れないでしょう。反体制的になって一生を棒に振るくらいなら、政治にはアンタッチャブルでいるほうが賢明です」

第30回コラム参照:ハーバード大学で学ぶ中国人は祖国の民主化を促す原動力となるか?2014年6月17日