今回は、「女性の職場進出」を拒む男性たちの野心をテーマにした事例を紹介したい。舞台は、医療機器販売会社(正社員数200人)の営業部。30代半ばの営業マンが見た職場のからくりは、タテマエとホンネを巧妙に使い分けたものだった。「女尊男卑」に見えながらも、実はすさまじい「男尊女卑」が根付く会社の実態を、浮きぼりにする。


「社長らしき人」の葬式は、
信者が参列する宗教団体の行事のよう

女性の社会進出を標榜する企業は多いが、実際、男性社員たちの本音はどうなのだろうか(写真は本文とは関係ありません) Photo:yuu-Fotolia.com

 昨年11月下旬、神奈川県のJR葉山駅前。午後5時頃、市役所の方面に向かう道にはおよそ30メートルごとに喪服を着た20~30代の男性が立っている。いずれも、某医療機器販売会社(正社員数200人)の社員たちだ。大手メーカーのグループ会社であり、創業30年を超える。大手メーカーの本部長たちの天下り先であり、50~60代社員のリストラ先の会社でもある。

 男性社員たちは「喪中」と書かれた紙を持ち、底冷えがする中、やや前かがみになりながら立つ。その中に、石原幹夫(仮名・36歳)がいた。2年前に、大手不動産会社の子会社から転職した。入社早々から今に至るまで、迷いの中にいる。この会社に残っていいのだろうか、と――。

 この日は「社長」の葬式だった。現在の社長ではなく、かつて社長を経験した人のようだ。石原いわく「実は、何代前の社長なのか、道に並ぶ男性社員のほとんどが把握していない。氏名すら知らない」のだという。

 昨日の午後、人事部が社内のイントラを通じ、「社長」の死を伝えた。そこには氏名が書かれてあった。石原は、上司や周囲の社員数人に尋ねたが、誰も知らない。上司は石原に淡々と指示をした。

「また、死んだか……。明日、夕方から午後8時頃まで、葉山駅から教会までの通りに喪服を着て、立ってくれ。取引先の会社の人たちが来て、教会までの道を聞いたら、教えてやってくれないか……」

 どうやら、「社長」と呼ばれる人は、この会社には何人もいるらしい。社長を経験した相談役や顧問だ。現時点で6~8人くらい。高齢化が進み、平均年齢は80代後半に達している。1年に1~2回のペースで、その人たちの葬儀が行われている。もはや「年中行事」になっているのだ。

 今回の「社長」の葬儀は、この町の外れの教会で行われる。「社長」は生前、クリスチャンであったかのかといえば、誰もそれを知らない。それでもとりあえず、葉山に向かうのだ。石原にとっては初めての仕事であり、要領がつかめない。10人前後の男性社員と一緒に、葉山駅に向かった。