今後、世界に類を見ないスピードとレベルで進むと見られる日本の人口減少。それが我々の生活に与えるインパクトは、想像以上に大きいようだ。経済、年金、財政、インフラに迫るリスクとは、どんなものか。そして、迫りくる危機にどう対処すべきか。前回に続き、人口減少に詳しい松谷明彦・政策研究大学院大学名誉教授が、詳しく解説する。(まとめ/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)

日本の経済成長率は
世界で一番低くなる

未曽有の人口減少がもたらす<br />経済、年金、財政、インフラの「Xデー」(上)「人口減少下日本」で続く再開発。この巨大なインフラを、将来にわたって維持・管理できるのだろうか Photo:moonrise-Fotolia.com

前回は、人口減少はなぜ起きるのかについて説明しました。人口減少は、日本の将来を左右する巨大な環境変化です。今回はそれを受けて、人口減少にはどんなリスクがあるのか、どんな対応策を考えるべきかを検証しましょう。

 人口減少は、経済、年金など社会保障制度、財政、そしてインフラなどに様々なリスクをもたらしますが、そのリスクの内容やリスクをもたらす元凶については、かなりの誤解があるようです。具体的に説明しましょう。

 最初に経済についてですが、確かなことは日本の経済成長率が世界で一番低くなるということです。なるだろうではなく、確実にそうなります。その点は、変えようのない未来というわけです。

未曽有の人口減少がもたらす<br />経済、年金、財政、インフラの「Xデー」(上)まつたに・あきひこ
1945年生まれ。経済学者。1969年東京大学経済学部経済学科卒、大蔵省入省、主計局調査課長、主計局主計官、大臣官房審議官等を歴任、97年大蔵省辞職、政策研究大学院大学教授、2011年同名誉教授。2010年国際都市研究学院理事長。『「人口減少経済」の新しい公式』『人口流動の地方再生学』(共に日本経済新聞社)、『人口減少時代の大都市経済 - 価値転換への選択』(東洋経済新報社)、『東京劣化』(PHP新書)など著書多数。

 なぜなら、日本は、どの先進国よりも、労働者の減り方が大きいからです。というより、先進国ではむしろ労働者が増加する国が多く、減少する国でもその減少幅は日本に比べはるかに小さいのです。

 一国のGDP(国内総生産)の大きさは、その国の労働者数と労働生産性(1人の労働者が1年間で生産する量)をかけたものになります。ですから経済成長率は、労働者数の増減率と労働生産性の上昇率で決まります。そのうち労働生産性上昇率については、先進国の間ではどこの国もほぼ同じです。労働生産性は、生産の機械化や製品の開発といった技術進歩によって上昇しますが、経済のグローバル化で新技術はたちまち伝播するため、先進国間では上昇率はほぼ同じになるのです。

 となると、先進国間の経済成長率の相対的な関係は、労働者数の増減率によって決まることになります。ですから、日本は先進国の中で最も経済成長率の低い国にならざるを得ません。そして、技術輸入国である新興国や途上国の経済成長率は、当然先進国より高くなるので、日本が世界で最も経済成長率の低い国になるというのは、変えようのない未来なのです。