東京電力の筆頭株主に突如、耳慣れない外資系ファンドが躍り出た。

 その名はアライアンス・バーンスタイン。

 富士通などにも投資する米国系ファンドで、村上ファンドのように積極的に増配などを要求する「アクティビスト」ではないと見られる。

 だが、電力業界の盟主である東京電力の筆頭株主に、外資系ファンドが登場したことで憂慮する声も上がっている。

 「とうとう来るものが来たか」。

 東京電力のある関係者は率直な感想を漏らした。

 今年に入り、外資系の投資ファンドや外国政府が運営する国家ファンドによる日本のエネルギー銘柄への投資が進んでいる。

 電力卸最大手のJ-POWERに対しては英国系ファンドのTCIが9.9%を投資する筆頭株主となり、配当を2倍以上に引き上げる増配要求を行なった。石油元売り大手のコスモ石油はアラブ首長国連邦(UAE)・アブダビの政府系投資機関が20%を出資する筆頭株主となった。

 相次いで外資系ファンドが日本のエネルギー銘柄に投資するのは、世界的な資源高を背景としたエネルギー関連銘柄への期待が高く、同時に規制に守られた業種であり投資対象としてのうまみが大きいからだ。特に電力会社は自由化が進んだとはいえ、いまだに地域独占体制が根強く残っており、それだけ収益改善の余地は大きい。

 また、原油やガスなど資源国の国家ファンドにとっては、安定的な市場の確保という側面もある。エネルギーの消費大国としての日本市場を押さえておきたいと考えるのは不思議ではない。

 過去、アライアンスが極端な要求を行なった事例はなく、まだ安心といえるが、国家ファンドや国家の関与が濃いファンドとなれば話は違うかもしれない。

 中津孝司・大阪商業大学教授は「今後、国家ファンドが電力会社に食指を動かしてくる可能性が高い。今回の事態はその素地をつくってしまった。国家のエネルギー安全保障を外国に握られることになれば一大事だ」と警告を発する。ちなみに、中津氏はその最有力候補として世界最大のガス会社・ロシアのガスプロムを想定する。

 外国為替法では、国家の安全や秩序維持を妨げる場合、外資による電力会社株の10%以上の保有を中止させることができる。そのため東京電力幹部の危機感はまだ低いが、資源を楯に国家ファンドが乗り込もうとしたとき、本当に抑止力を持つのか。

 こうした事態を想定し真剣に議論を始める時期がきている。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 野口達也)