今回は、グローバル化の最前線である日系大手証券会社のシンガポール支店で働いていた41歳の男性(A氏)を取り上げたい。男性は昨年暮れにこの証券会社を退職し、帰国した。現在は、大手金融機関のグループ会社に勤めている。
以前の会社のシンガポール支店にいた頃、正社員はいくつかのグループに分けられ、自らの扱いは「限定正社員だった」と振り返る。限定正社員とは、労働内容や地域が限定された正社員のことで、非正規社員と正社員の中間的存在と言える。A氏はその待遇などに不満を感じて辞めたそうだ。
限定正社員は、非正規雇用の増大に歯止めをかける目的で、政府の成長戦略でも導入が検討されてきた。一方で、解雇されやすいといった労働条件面でのデメリットも指摘され、世間ではその是非が議論されている。
これまで日本型正社員が中心だったビジネスパーソンの働き方が多様化するなか、彼のように不満を持つ社員は、今後日本国内でも多く見かけるものと予測できる。しかし筆者に言わせれば、こうした議論には的を射ていない部分も少なからずあるように思う。日本企業の海外支店の内情をえぐることで、「働き方」に関する議論の盲点を炙り出したい。
限定正社員は安かろう、悪かろう
だから、辞めさせればいいんだ
A氏 シンガポール支店は、日本企業の今後の人事のあり方を先取りしている感じでした。150人ほどの正社員をその職種や仕事の内容などによって、いくつかのグループに分け、総額人件費などの管理をしていました。今風に言えば「多様化する正社員」であり、私などはその1つとして「限定正社員」だったのだと思います。
だけど実際のところ、「限定正社員などを安かろう、悪かろう、だから、辞めさせればいいんだ」としか見ていないのが、不満でしたが……。
シンガポールは東南アジアの金融センターです。日本からは主だった証券会社や銀行などが進出していましたが、支店での人事のあり方は、どこの会社も同じようなものだったと思います。