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黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

海外で日本人社員を“使い捨て”するグローバル証券の罠(下)

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第14回】 2015年5月12日
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>>(上)より続く

筆者 たぶん、東京本社の人事部などはそうした認識を持ち、シンガポール支店で正社員のグループ分けを試みていると思うんですね。その証券会社に限らず、日本の大企業は労働法などの縛りがゆるいアジアの国では、人事制度や賃金制度などで大胆な実験をすることがあります。そこで成功すると、日本にその人事制度を言わば「逆輸入」をするのです。

現地採用は「限定正社員」扱いで
年収300万円以下というひどい格差

 ところで、支店にあった他のグループは、どのようなものでしょうか。

A氏 3つめのグループは、管理部門。総務や経理、ITなどの部署があります。管理部門のトップの部長は日本人ですが、その下にいる社員40人ほどは、現地で雇い入れたシンガポール人です。

 数人を除き、ほとんどが単純作業に近い仕事をしていて、年収は200~300万円と聞きました。労働形態は、日本でいえば正社員に該当するようですが、昇格はなく、転勤もありません。昇給もほとんどないと耳にしました。「限定正社員」みたいなものなのでしょうね。あれでは派遣社員などの非正規と変わりませんよ。

 40人ほどの仕事のレベルは相当に低く、私も驚いたほどです。まさに「安かろう、悪かろう」です。ローコスト体制を維持する要員としてしか、見なされていない。それほどに仕事が単純化されているのです。安く使おうとするから、それなりのレベルしか集まらないのです。私は、ここに問題を感じましたね。

 現地人でも、IT部門のヘッドや部長、支店長になれるようにしないといけない。ところが現地人は「限定正社員」で、年収300万円以下……。これでは、現地人で優秀な人は入社しないでしょう。海外では、日本の企業は人材の奪い合いで負けている傾向がありますが、その理由の1つはこんなところにあるように思います。

筆者 たぶん東京の本社は、現地人は「限定正社員」で年収300万円以下でいい、と思っているのでしょうね。そもそも人件費を抑え込むために、シンガポールに進出したのでしょうから。むしろ300万円を100万円にするために、今度はアフリカなどに拠点を構え、そこでそのITの仕事を一斉に賄おうとするかもしれませんね。10~20年以内には……。IT部門は、それが可能でしょう。
   
 資本の論理は、弱いところを徹底して弱くしていくことにありますから。それが、ある意味で健全なのでしょう。

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吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

 ここ10数年の間に社会環境が大きく変わり、人々のホンネとタテマエに対する価値観が揺らぎ始めている。それを具現化しているのが、今の企業の職場ではないだろうか。これまでは、ホンネとタテマエが絶妙にバランスしながら、人間関係が維持されてきた。しかし、企業社会において生き残り競争が激化し、「他人より自分」と考えるビジネスパーソンが増えるにつれ、タテマエを駆使して周囲を蹴落とそうとする社員が増えている。

 誰もが周囲を慮らなくなり、悪質なタテマエに満ち溢れた職場の行きつく先は、まさしく人外魔境。そこで働く社員たちは、原因不明の閉塞感や違和感、やるせなさに苛まれながら、迷える仔羊さながらに、次第に身心を蝕まれて行く。この連載では、そうした職場を「黒い職場」と位置づけ、筆者がここ数年間にわたって数々のビジネスパーソンを取材し、知り得たエピソードを基に教訓を問いかけたい。

「黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史」

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