iPadのFaceTimeで小樽の魚市場とつなぎ、東京の吉祥寺や三軒茶屋で魚を売る行商人をご存じだろうか。人呼んで“iPad魚屋”。魚を仕入れる必要がなく、店舗も持たない。小樽の三角市場の新鮮な魚介類をiPadに映し出し、リアルタイムで販売する。手数料として販売価格の15%をもらう、シンプルなビジネスだ。
店主の吉川仁さんは、平日はトラックドライバーとしてハンドルを握る。iPad魚屋は土日だけの営業にもかかわらず「わずか4時間で20万円売った時もある」(吉川さん)という盛況ぶりだ。
数年前よりメディアに取り上げられるようになり、新時代のビジネスとして脚光を浴びている。
しかし、このビジネスを着想したのは10年ほど前のこと。もちろん、iPadはまだ世の中にない。「NTTフレッツフォンの時代です。いわゆるテレビ電話ですね。回線速度も遅くて苦労しました」(吉川さん)
吉祥寺のレンタルスペースで始めた新ビジネス。フレッツフォンの小さな画面と乏しい回線速度という、貧弱なインフラだった。
しかし、物珍しさも手伝って魚はけっこう売れた。「NTTも注目し、出資者も現れるなど、事業意欲がふくらんでいった」と吉川さん。