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年金引き下げ違憲訴訟で現実となった
「シルバー民主主義」の脅威

八代尚宏 昭和女子大学グローバルビジネス学部特命教授

八代尚宏 [昭和女子大学グローバルビジネス学部長・現在ビジネス研究所長]
2015年6月9日
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高い投票率を武器にした「シルバー民主主義の脅威」が、年金引き下げ違憲訴訟で露呈し始めた
Photo:Paylessimages-Fotolia.com

年金支給額の引き下げを憲法違反とする集団訴訟が全国で始まった。これは年金法で定められている年金のデフレスライドの実施や、年金財政を安定化させるための給付抑制が、最低生活を保障する憲法に反するという主張である。今後、急速に高齢者が増える日本で、もっぱらその利益を追求する集団が、高い投票率を武器として大きな政治力をもつ「シルバー民主主義」の脅威が、現実のものとなりつつあることを示している。

年金引き下げ違憲訴訟に欠けている
3つの重要な視点とは

 この集団訴訟の主要なポイントは、以下の3点である。

 第1は、個人単位の国民年金の給付額は、40年加入で月額6.5万円、平均では5万円に過ぎず、単身者は生活できない。また、無年金者が100万人も存在する。第2に、過去のデフレスライド停止分の利得返済(特例水準の解消)は、物価上昇の中で解消するべきで、物価下落局面での年金支給減額は法律違反である。第3に、これに加えて、年金の実質減額(マクロ経済成長スライド)は、憲法で禁止されている、合理的な理由なく財産権を侵害する行為に相当する。

 しかし、これらの論理には、次の3つの視点が欠けている。第1に、公的年金は憲法25条に基づく生活保護のような最低生活保障ではなく、給付と負担の均衡原則に基づく「保険」である。第2に、公的年金の受給者が、過去に支払った保険料に対応する財産権を持つとしても、それは現実の給付額の一部に過ぎない。実際には、勤労者世代の財産に強制的に課される社会保険料・税を財源とした、多くの世代間の所得移転を受けていることである。第3に、低所得層の所得維持のためとする年金給付の引き上げは、結果的に中・高所得層の年金受給者にも大きな利益となるポピュリズムと結びつくことである。

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八代尚宏[昭和女子大学グローバルビジネス学部長・現在ビジネス研究所長]

やしろ・なおひろ/経済企画庁、日本経済研究センター 理事長、国際基督教大学教授等を経て現職。最近の著書に、『シルバー民主主義』(中公新書)がある。

 


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