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人生の99%は思い込み――支配された人生から脱却するための心理学
【第8回】 2015年6月12日
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鈴木敏昭 [心理学者]

あなたが無意識に参加している「ゲーム」は
こんな「公式」に則っている

なぜ肝心なときに失敗してしまうのか、なぜ幸せを自ら崩壊させてしまうのか……。あなたには、そんな傾向はないだろうか? 実はこれらはすべて思い込みからなる「人生脚本」のせいだと語るのは、『人生の99%は思い込み』の著者である心理学者の鈴木敏昭。人生脚本を推し進めるのは人生ゲームの存在。人生ゲームの公式を具体例とともに解説する。

無意識に参加している人生ゲーム
その公式を探る

 人生脚本を前に進めるために無意識に参加してしまう「ゲーム」。その構造はどうなっているのだろうか。
 実はゲームには公式がある。具体例から考えてみよう。

<例>
 昼下がり、オフィスの給湯室。一人の男性社員が気分転換に席を立ち、コーヒーを淹れに来た。すると、そこに後輩の女性社員A子がやって来た。
 給湯室には二人きり。A子は、伏し目がちに男性社員を見つめ、こう言った。
「今日、お時間ありますか? お話があるんですが……」

 さて、皆さんはこんなシチュエーションになったら、どう感じ、行動するだろうか?

 男性なら、心のどこかで「この子、もしかして俺に気があるのか?」と期待してしまうだろう。しかし、これはその女性社員が仕掛けた「ゲーム」かもしれない。
 心理学者のエリック・バーンは、ゲームに必要な要素と展開を、以下のような公式にした。
 

餌(罠)+弱み→反応→役割交替(切り換え)→混乱→報酬

 それぞれのパーツを紐解いていく。

<1、餌(罠)>
 A子は「話がしたい」としか言っていないので、単に仕事の相談がしたいだけの可能性は十分ある。実際に話を聞けば、たいしたことのない内容かもしれない。
 そうだとわかっていても、なんとなく「何かありそう」と想像してしまう。それこそ、A子が仕掛けた「餌」なのだ。
 餌は、言外に伝わって来る「裏のメッセージ」だ。
 もし上司から、「君は面白いねえ」と苦笑交じりに言われたら、それは嫌味だとわかるだろう。人は言葉として伝えることだけが本心とは限らない。
 そのようなときになんとなく伝わって来るものが、餌なのだ。ゲームを仕掛けてくる人は、食いついて来そうな人に向けて餌を投げてくる。
 だから、他人が仕掛けてくるゲームに巻き込まれないようにするには、まずは相手の言動に何か含んでいると感じたときに、冷静に分析してみるといいだろう。
 先ほどの例ならば、みんながいる場所で声をかけたり、社内メールで伝えたりという方法もあったのに、あえて二人きりの時に声をかけてきたとしたら、要注意だ。相手は自分をターゲットにしてゲームを始めようとしていると思った方がいい。

<2、弱み>
 給湯室の例でいうなら、女性に声をかけられるとすぐに「俺に気があるのか?」と勘違いしてしまう「男の愚かさ」「下心・性欲」だ。それが「弱み」である。
弱みは、相手に投げられた餌に思わず食いついてしまう衝動と、その原因を意味する。衝動の原因は、コンプレックスもあれば、食欲や性欲などの欲求、悩みや過剰な自信などさまざまだ。「あいつにだけはバカにされたくない」「クリスマスまでに彼氏が欲しい」など執着していることだ。
 人は、そうした執着にめがけて餌を投げられると、思わず食いついてしまう。そうやって、ゲームに巻き込まれるのだ。

<3、反応>
 これは、不幸にして「餌(罠)」と「弱み」がうまく合致し、ゲームを仕掛けられた人がつい起こしてしまうアクションのことだ。
 A子の「今日、お時間ありますか?」という言葉に対して、「じゃあ、今夜食事でも」「仕事の後、飲みながら聞くよ」と答えたなら、しっかり反応してしまっている。
 この反応が、ゲームの本格的な始まりと言っていいだろう。ここで「今、聞くけど」「何? 仕事の悩み?」など、冷静に対応していればゲームに巻き込まれることはない。
   後々後悔しないために、今後は自分の言動だけでなく、その少し前の相手の言動も思い出してみてほしい。よくよく考えれば、あなたの行動はゲームに巻き込まれていただけかもしれないのだ。

<4、役割交換>
 先ほどの事例をさらに展開させて考えていこう。

「仕事の後、食事にでも」と誘われたA子は、「お願いします」と応じる。最初は他愛のない仕事の相談だったが、お酒が入り、リラックスしたころにA子は「実は、Bさんからちょっときついことを言われてるんです」と本題を切り出す。
 Bさんは社内で古株の女性社員だった。
 冷静な時なら、「それは君にも問題があるんじゃないの?」と指摘できるかもしれないが、既にゲームが始まっていると、そうもいかない。
「それはちょっとやりすぎだね。Bさんには、僕から注意しておくよ」と、つい男気スイッチが入って安請け合いしてしまうだろう。
 A子は、「ありがとうございます! やっぱり、△△さんに相談してよかった~。頼りになります」と無邪気に喜ぶ。
「いやいや、それほどでもないよ」と男性。
「でも、ほかの女の子たちも言ってますよお。△△さんは頼もしいって」
 こんなダメ押しの一言を言われたら、男性は完全にエンジンがかかってしまう。
「どう? オレんちで飲み直さない?」
 ところがA子の反応は予想外だった。
「何か誤解されてません? ワタシ、そんなつもりで相談したんじゃありません! △△さんは会社の人にそうやって言い寄るんですか!」

 ここで起きているのが、「役割交換」だ。
 役割交換は、仕掛けた側と仕掛けられた側の立場が入れ替わることを意味する。つまり無意識でも餌(罠)を仕掛けた側が今度は仕掛けられたかのように騒ぎ立てるのだ。攻守が入れ替わったり、加害者と被害者が入れ替わったりする。
 男性社員は、いつのまにか手を振り払われ、糾弾される側に回ってしまったのだ。

<5、混乱>
 予想(期待)がはずれて、突然の役割交替に戸惑うのである。
 すっかり悪者にされ、男性社員はそれ以来A子を避けるようになる。二人とも、後味の悪い思いしか残らなかったのだ。

<6、報酬>
 報酬とは、ゲームを仕掛けたプレイヤーが最終的に得たいと思っている感情やストロークのことだ。
 ゲームの結果、その人が何を得たいと思っているかは、その人の人生脚本の内容や、4つの構えのどれを持つかによって変わってくる

・A子が「自分はOK、あなたはNG」の構えの場合→「正義の確認」、男への復讐、気に入らない先輩OLの排除などが報酬
・A子が「自分はOKで他人はNG」の構えの場合→「こんなことも解決できないの?」「本当に無能なんだから!」と罰を与えることが報酬
・A子が「私はNG、あなたはOK」の構え→「罪悪感」、男性社員を巻き込んだ後悔、「私って、いつもゴタゴタに巻き込まれてしまう」と悲劇のヒロイン観に浸るのが報酬

 このように、表面的には同じゲームをやっていても、その動機や得たい報酬は人によってまったく違う

 ゲームを仕掛けられるのは、男性社員のように人の悩みを真剣に聴いて受け止めてくれるような人や、プレイヤーに攻撃されたときに感情的になって反発する人、いじける人などが選ばれる。プレイヤーは適した相手を無意識のうちに選んでいるのだ。

   ゲームの公式を理解すると、相手にゲームを仕掛けられたとしても、冷静にそれに対処できる。自分がゲームを仕掛けてしまった時にも、そのゲームを途中でやめることができるはずだ。

人は人生のあらゆる場面で「ゲーム」を仕掛けたり、仕掛けられたりしている。それはほとんどが無意識であることが多いのである。

 次回は、ゲームに隠された「裏のメッセージ」について解説する。ゲームについての理解をさらに深めていけるだろう。 

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鈴木敏昭 [心理学者]

◎1950年東京生まれ。教育学修士(京都大学/1980年)。
◎77年横浜国立大学教育学部卒業後、80年に京都大学大学院教育学研究科(修士課程)修了。85年に京都大学大学院教育学研究科(博士課程)単位取得満期退学。その後、四国女子大学家政学部助教授などを経て、96年より四国大学生活科学部教授。
◎専門分野は心理学。「自己意識の構造」が最大テーマ。その主な下位領域として自尊心、性意識、思い込み、人格形成などを研究。
◎中学2年のときから「自分とはなにか?」に関心があり、以来ずっと「自分」についての研究に没頭している。
◎日本心理学会、日本発達心理学会、教育心理学会、日本社会心理学会所属。著書に『自己意識心理学概説』(北樹出版)、『自己成立の発達心理学』(ふくろう出版)、『思い込みの心理学』(ナカニシヤ出版)などがある。


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