かつてSF(空想科学)の世界だった国家間のサイバー戦争は、時代の進展で現実のものとなった。そして今、世界は“金融戦争”の勃発を視界に捉えつつある。銀行のルールブック変更での国益争いや、外国銀行への1兆円もの罰金制裁などは、金融が“兵器”と化す新時代の到来を予感させる。(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)
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「金融の兵器化」──。国際政治リスクを分析する米調査会社ユーラシア・グループが、年初に発表した「2015年の世界の10大リスク」の中で挙げた項目だ。
見慣れないこの字面が意味するところは、米国による新たな覇権掌握の手法だ。米国はかつてのように軍事力ではなく、金融という新たな“兵器”で世界的に影響力を発揮しようとしているのだ。
それを端的に示すのが、外国銀行への巨額の罰金制裁だ。14年6月、米国が仏銀行最大手のBNPパリバに対して約90億ドル(当時のレートで約9100億円)もの罰金を科したことはその象徴といえる。フランスの大統領や中央銀行総裁が強い反発を示すなど、外交問題にまで発展した。
問題とされたのは、米国の金融制裁対象である「敵国」、イランなどの国とパリバがドル建てで取引をしていたことだ。同じ“罪状”で、英銀大手HSBCホールディングスや三菱東京UFJ銀行も罰金を食らっている。
米銀や他の案件への罰金を合わせると件数も金額も倍増。「普通は罰金といえば銀行にとって一時的な損失だが、業界全体で見ると恒常化しつつある」(メガバンク幹部)ほど頻発しているのだ。
米国は、世界の基軸通貨であるドルの使用権や世界最大の金融市場への参入チケットという“アメ”をちらつかせ、自らが定めたルールを破るものには罰金の“ムチ”で打つという二段構えの「金融の兵器化」で、世界の覇権を握ろうとしているというわけだ。
そして今、「金融の兵器化」は日本にとって、米国だけでなく世界中で意識せざるを得なくなってきている。というのも、国際的な金融規制の新ルールが、いつ“兵器”として日本経済に牙をむくか分からない状況にあるからだ。