創続総合研究所

ドラマの中ばかりではない、若い後妻vs先妻のバトル
~相続だからこそ、むき出しになる感情がある

「遺言を書いて」が言えなかった

八木 では、実際の相続では、どんな争いになったのですか?

八木美代子
ビスカス代表取締役

浅野 こちら側としては、被相続人の遺志もありますから、ざっくり「遺産は当方7、そちら3の分割でどうですか?」と提案したんですね。すると、娘さんは、「それは認められない」と、弁護士を立ててきました。「法定相続分の2分の1は譲れない」というわけです。
 結局、両者の遺産分割協議では決着がつかず、家庭裁判所の調停に委ねることになったのですが、最終的には、おおむね両者2分の1ずつ相続することで妥協しました。株高で、先行き値上がりが見込める債権類はこちらの取り分にするなど、依頼者の利益を少しでも大きくするよう努力しつつ、相手側に「譲歩」したのです。

八木 被相続人の遺言書がなく、調停に持ち込まれたとなると、「法定相続分での決着」という結果になるのは、ある程度仕方がないですよね。後妻の方は、なぜ意志を遺言書として残してくれるよう、夫にお願いしなかったのでしょう?

浅野 被相続人は、最後、数ヵ月入院して亡くなりました。意識はしっかりしていて、「遺産はお前に」ということを、再三おっしゃっていたようです。でも、日に日に痩せ衰えていく夫に対して、「あなた、遺言書を書いて」とは、さすがに言えなかったのだそう。その心情は、よく分かります。
 非情な言い方に聞こえるかもしれませんけど、このケースでは、旦那さんが率先して遺言書を書いておくべきでした。それがなかったから、結果的に遺志を通すことができなかった、ともいえます。

憎しみの心が、相続の場で増幅される

八木 調停の段階まで「頑張る」のは、けっこうエネルギーの要ることだと思います。娘さんのほうも、あえてそこまでこだわるわけがあったのでしょうか。

浅野 実は、被相続人は、離婚する時に、先妻に自分のやっていた事業を渡したりしていました。それもあって、この母娘には、少なくとも遺産をもらわないと生活に困る、といった事情は、なかったんですね。
 娘さんの一番のエネルギーになったのは、やはり「感情」ではないかと、私は感じています。詳しい理由は知りませんけど、父親と娘は、あまり関係が良好ではなかったようです。母親と離婚後も、時々父親のところに電話をかけてきては、いろいろ文句を言っていたそうです。
 他方、母親も、自分より20歳以上も年下の女性と再婚した元夫や、たった3年の結婚生活で、億単位の遺産を相続することになった後妻に対する気持ちには、相当複雑なものがあったでしょう。

八木 何十年も連れ添った自分自身は、ビタ一文、もらえないわけですし。

浅野 ええ。ですから、この相続は、前妻が娘を前面に出した「代理戦争」という様相もはらんでいました。それだけに、根が深かった。もしも、こちらが譲らなかったら、調停でも収まらず、裁判になっていたかもしれませんね。
 とはいえ、だから娘さんの側が遺産を要求するのは間違っている、などというつもりは、毛頭ありませんので、念のため申し添えておきます。遺言書がない以上、法定相続分を欲しいというのは、当然の権利ですから。基本的に、依頼者と寄り添って話を進めるのが私たちの仕事。仮に娘さんの側に立ったなら、また別の世界が見えてくるかもしれません。それが相続というものなんですよ。

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八木美代子 [株式会社ビスカス代表取締役]

早稲田大学卒業後、リクルート入社。1995年に株式会社ビスカスを設立。税理士を無料でご紹介するビジネスモデルを日本で初めて立ち上げ、現在まで10万件以上のマッチングを実現。相続に強い税理士のみを集めたサイト「相続財産センター」を運営し、相続コーディネーターとしても業界ナンバーワンの実績を誇る。著書に『相続の現場55例』(ダイヤモンド社)、『相続、いくらかかる?』(日経BP社)、『相続は『感情のもつれ』を解決すればお金の問題もうまくいく』(サンマーク出版)などがある。
株式会社ビスカス

 


相続の現場~争いから学ぶハッピー相続術

相続の別名は、「争続」。仲の良かった兄弟姉妹が親の遺産を前に骨肉の争いを演じるというのは小説やテレビドラマの中だけの出来事ではないようです。諍いの中心はもちろん「お金」。ですが兄弟姉妹には、他人がうかがい知ることのできない「本音」「思い」があるようで……奥底にある「心の綾」を解きほぐすと争いから一転、分かりあえるのが家族。そうした「ハッピー相続」の例を解説します。

「相続の現場~争いから学ぶハッピー相続術」

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