始業3分前になると、各リーダーは担当工程の作業員を持ち場に整列させ、作業上のチェック項目を伝えた。また、自分たちが扱う部品を手に取らせ、どこを見れば不良品かをわからせるようにした。あっという間に3分が経ち、各人は持ち場についた。

 健太がモデルラインを歩いて観察したところ、品質向上の意識をいきなり徹底させるのは困難だが、各作業員が実際に部品を手に取って、それを確認する動作を始めたことがよくわかった。少しずつではあるが、改善に向けた取り組みが走り始めた手応えを感じた。

 そこに麻理がやってきて、健太に声をかけた。

「良いスタートを切ったようね。でも、これを単なるポーズで終わらせないためには、目に見える効果を実感させることが大事だわ」

「確かにそうだね。何か指標を決めて、それを発表するようにしようか」

「私もそう思っていた。何かKPI(キー・パフォーマンス・インディケーター=重要な経営管理指標)を決めて、それを毎日モデルライン近くの壁に張り出すのはどうかしら。それと、各工程の不良率は毎日確認できるようにしておきたいわ」

「いいアイディアだね。あとは生産量も入れるかどうか。ただでさえ顧客からは製品を早く出荷しろと圧力がかかっているから、品質だけでは不十分だ。でも、まだ早いかな。まずは不良品を弾くことだけに集中しよう」

「賛成だわ。チョウさんと相談して、どんなKPIを壁に張り出すか決めましょう」

 ラインの反対側にチョウの姿を見つけたので、側にいた山田にも加わってもらい、2人は早速相談することにした。概略を説明するとチョウも賛成してくれた。

 そこで山田が意見を述べた。

「数字での管理も重要ですが、今は原因をつぶしていくことが何より重要です。モデルラインなのだから、ミスが起こる原因とその見極めをナレッジとして蓄積・共有することで、高い生産品質を達成できるラインを一刻も早く構築しないといけません。どの工程でどんなミスが起きがちなのかを報告してもらい、それを皆で共有するようにしましょう」

「山田さん、その通りですね。そうしたナレッジを共有すれば、皆の意識も高まるでしょうね」と健太も賛成した。

 その場で4人はラインリーダーから毎日報告してもらう内容を決め、それを壁際に設置したホワイトボードに記入することにした。