7月2日、約700ある地域農協を束ねる全国農業協同組合中央会(JA全中)の新会長が決まった。政府主導の農協改革を受け入れた直後の会長選挙で、下馬評を覆して勝利したのは改革派候補だった。この結果は、農協を牛耳る既存勢力にNOが突き付けられたともいえる。農協組織に何が起きているのか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 千本木啓文)
東京・大手町のJAビルで2日、JA全中会長選挙の結果が発表されると役員推薦会議の会場は騒然とした。投票結果は大方の予想に反していた。「不正があったんだ」。農協界のドン・JA京都中央会の中川泰宏会長の叫び声が響き渡った。
衆院議員を務めたこともある中川氏は、農協組織の選挙があれば票固めに動き結果を左右することが多く、その剛腕さ故に敵も多い。中川氏は今回、自身と同じ近畿ブロックから全中会長に立候補したJA和歌山中央会の中家徹会長支持で動いた。
開票までは中家氏優勢とみていたが、ふたを開けてみれば、改革派のJA三重中央会の奥野長衛会長の勝利。怒りに震えて、冒頭の怒鳴り声となった。
中川氏と同じく守旧派側に回ったのは、全中の現副会長を務めるJA北海道中央会の飛田稔章会長、元全中専務の山田俊男参院議員ら、全中をピラミッドの頂点にした農協組織を牛耳ってきた最高幹部たちである。こうした面々が、「農協組織はトップダウンではなく、必ずボトムアップでやらないと生き残っていけない」と、現体制に反旗を翻した奥野氏を支持するはずもない。
最高幹部らの支持を集めた中家氏の勝利は確実視されていた。
しかし、この見立てにはある前提があった。全中会長は、地域農協の組合長らから成る代議員251人による投票で決まる。近畿、九州といったブロック単位や、都道府県の中央会長が決めた候補者に、組合長らが“右へ倣え”で投票する選挙の在り方がそれだ。
その前提が、今回の選挙では一部崩れていた。地域農協が独自の農産物販売戦略などで競い合う農協改革を是とする組合長がひそかに奥野氏支持に回ったのだ。守旧派にとっては想定外の票が改革派に流れたことになる。
ある農水省幹部は、「上部組織に従わず、自由意思で投票する組合長が増えた。上意下達の統制的な組織運営に疑問を感じる組合長が出てきたということだ」とみる。
守旧派には、別の誤算もあった。
中家氏が地元選出で旧知の自民党の二階俊博総務会長の支持を取り付けたことが逆効果になったのだ。二階氏は3月に全国土地改良事業団体連合会長に就任するなど、農林族の代表格でもある。
ある農協関係者は、改革派の奥野氏の勝因について、「改革の必要性が世間で喧伝されているときに、守旧派の新会長候補が自民党の族議員の支援を受けているというのは、“改革に逆行する”という間違ったメッセージになりかねないからだ」と解説する。