“スリムな本社”という耳当たりのよいスローガンの下に、本社IT部門にはIT予算管理およびベンダー管理といった最低限の機能だけを残し、それ以外をシステム子会社やアウトソースに委ねるというのが、あたかも定説のように語られている。ITが経営やビジネスに大きな影響を及ぼすようになった現在においても、この定説は本当に正しいといえるのであろうか。
スリムな本社の是非
昨今、大手企業において本社の過度なスリム化によって、人事部門、経営企画部門およびIT部門が弱体化している事例を頻繁に目にするようになった。例えば、多くの人事部門は採用と新卒教育および一部の年次研修などのサイクルを回すだけで手一杯で、実際の人材育成は現場に任せており、10年先を見据えた人材戦略や人事制度を含む将来の働き方を構想化するような役割を十分に果たせていない。
経営企画部門は、予算計画の取りまとめや月次の経営会議のための集計資料作りに忙殺され、将来の会社の方向性を示すような本来の経営を企画するという役割を担っているとはいえない。IT部門も少数の人員では、内部統制やセキュリティといったリスク管理と一部のベンダー管理機能しか果たすことができないというの実態といえる。
良い会社の特徴として「スリムな本社」が定説のように語られる。会社全体の収益性の観点からは本社費は小さいほうが望ましい、というのは一見もっともな意見のように聞こえる。しかし、小さくなった本社費は、事業部門や情報システム子会社に転嫁されているだけではないだろうか。ややもすると、本社費を分散して転嫁したために、オーバヘッドが余計にかかっているというケースも少なくない。
しかし本来であれば、本社はしっかり機能して全社的な効率化や社員の活性化を支援するという重要な責務を持っているはずである。グループ経営が重視され、内部統制の観点からもグループ企業をスコープに入れたガバナンスが求められる昨今において、本社機能の重要性は以前よりも格段に高まっているのではないだろうか。今一度、「スリムな本社」そのものの論理的な妥当性を疑ってみるという視点も必要なのではないだろうか。
IT分社化の問題
国内の大手企業のIT組織運営について考える時、情報システム子会社の存在を無視することはできない。ITRの「IT投資動向調査2015」によると、従業員数1000名以上の企業で、情報システム子会社をもつ企業は65.2%にのぼる。欧米では、情報システム子会社をもつ企業は少なく、何千人というIT部門スタッフを抱えた企業が多数存在する。また、外部ベンダーにIT業務をフルアウトソースしていた大手企業が、インソースへ揺り戻すといった事例も報告されている。