ドラマ化・映画化され、今やシリーズ累計195万部超を記録する真山仁氏の小説『ハゲタカ』。最新作となる『ハゲタカ外伝 スパイラル』で中心に描かれているのは、これまでメインとなっていた大企業ではなく、中小企業の再生だ。今作は多くの中小企業が抱える問題そのものを投影しているが、小説を書く中で真山氏に中小企業再生の答えは見えたのか。元ヤフートピックス編集長で、現在ウェブメディア『THE PAGE』の代表を務める奥村倫弘氏が話を聞いた。(THE PAGE×ダイヤモンド・オンライン共同企画)
今、中小企業に必要なのは
「職人」よりも「プロデューサー」
――『スパイラル』、楽しく読ませていただきました。これまでのハゲタカシリーズは、大規模なM&Aが中心のストーリーでしたが、今回はなぜ中小企業をテーマに描こうと思われたのですか?
理由はいくつかありますが、1つは日本の企業は大企業だけではない、ということです。小説としては、企業の規模が大きくなるほどダイナミックになりますし、国をまたいだ方がスリリングになるのは確かです。ただ、企業買収をテーマに『ハゲタカ』シリーズを書いていくなかで、「日本の高度成長を支えてきた原動力ともいえる中小・零細企業が内包する問題を見過ごしたままにはしたくない」と思っていました。
実際、日本では大企業より中小企業の数、働いている方の数が圧倒的に多い。また、M&Aや企業再生をより頻繁に行わなければ倒産へ向かうのは、大企業より中小・零細企業の方です。
今回の『スパイラル』に登場する東大阪の中小メーカー“マジテック”は、ハゲタカシリーズ3作目の『レッドゾーン』から登場する会社で、連載時からずっと意識してきたのは、巨大メーカーと中小・零細メーカーのコントラストです。ものづくりにもいろんなステージがあり、それによって問題が異なることを表現したかったのですが、中小企業の再生に対する答えがなかなか見つけられず苦労していました。それが今回、小説の舞台である2008年を2015年に書くという時間の差を利用して知恵を絞り、考えた結果、ようやくひとつの答えが見つけられたと思っています。
――今回、中小企業の特徴を描くなかで、職人の技術力、特許にまでスコープを広げています。現在の日本の町工場が持つコンピタンスとは何だとお考えですか?
正直言って、何もないと思います。このままだと、企業を立ち上げた方がお亡くなりになると、一緒に企業が潰れるケースも多いでしょう。実は私も、“マジテック”再生の道筋を探るなかでずっと悩み続け、これまで大きく誤解していたことが1つありました。それは、ものづくりは職人の技術さえ磨けば存続できるという点です。きっと多くの方がそう思っていることでしょう。