政治家にとっては切実な問題
「10増10減」が持つ本質的な意味
7月28日、選挙区の定数を「10増10減」する改正公職選挙法が、衆議院本会議で自民党、維新の党、次世代の党の賛成多数により可決され、成立した。これは、かねてより裁判所から指摘されている参院選の「一票の格差」を是正するための改革であり、鳥取県と島根県、徳島県と高知県の2ヵ所において、憲政史上初めて「合区」を行うこととなる。選挙区の新しい定数は、来年夏の参議院選挙から適用される見通しだ。
「一票の格差」という言葉は、よくマスコミで騒がれているので耳にしたことがある読者も多いだろう。「今回の改革で一票の格差が是正された」と喜ぶ人もいれば、改革後でもなお最大で2.974倍も格差が残る状態に、「まだまだ生ぬるい!」と怒る人もいる。
しかし、ちょっと立ち止まって冷静になってほしい。単純な数字に翻弄される前に、「一票の格差」とは本質的に何を意味するのか、考えることが必要ではなかろうか。
「一票の格差」とは、要は1人の議員に対する有権者総数の数が同じ程度でなければ不平等だ、という意見であり、一見ごもっともな格調高い意見のように聞こえる。
しかし国政選挙でさえ、もはや半数の有権者が選挙に行かないような状況で「一票の重みが違う」などと言われても、白々しく聞こえてしまうのは筆者だけだろうか。
しかも「10増10減」とは、すなわち議員定数はそのままということを意味している。単なるバランスの問題ではなく、本会議中に居眠りしている議員、私腹を肥やしたり不祥事を起こしたりしている議員、政党名だけで当選し、さしたる成果を出さない一部の「比例議員」といった人たちを選別することのほうが、よほど人々が願っていることではなかろうか。
242人もいる参議院議員のうち、「10増10減」の影響を被るのはほんの数%。一般の国民からすれば、「そんなことは早くやればいいのに」という小さな話だが、当の政治家からしてみれば、「誰を殺し、誰を生かすか」という切実な問題なのである。
そこで本稿では、単なる数字遊びや学者的な論議を離れ、この「10増10減」の持つ本質的な意味を考察してみたい。
まず、「一票の格差を是正する」という意味を簡単に説明すると、「人口の少ない地方の議員を減らし、人口の集まっている都市の議員を増やせ」ということになる。