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ニューロビジネス思考で炙り出せ!勝てない組織に根付く「黒い心理学」 渡部幹

出雲大社の遷宮に学ぶ職場の引き継ぎの重要性

渡部 幹 [モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授]
【第30回】 2015年8月5日
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60年に一度の「大遷宮」の
途方もない難作業

 本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。

 正規、非正規採用を問わず、人材の流動性が激しくなった近年では、「仕事の引き継ぎ」「効率的なシェアリング」が重要となっている。引き継ぎやシェアリングと一口に言っても、アルバイトでもできる簡単なものから、非常に複雑なものまで、いろいろあるが、筆者は最近その中でも稀有な例に触れることができたので紹介したい。

 先月、出張と帰省を兼ねて日本に滞在した折、出雲大社を訪れる機会があった。知人の紹介で、運よく出雲大社の職員の方に案内をしていただきながら参拝することができた。出雲大社は現在、60年に一度の「大遷宮」の最中で、職員の方のお話も自然と遷宮についてのものになった。

 遷宮とは、どの神社も一定期間を置いて行われる「建て替え」のことで、本来ならば、神様をお祀りしている社をすべて建て替えて、「原点回帰」をして、御魂に力を取り戻していただくことを指す。その期間は、例えば伊勢神宮ならば20年ごと、出雲大社は60年ごととなっている。

 ただし、現在国宝となっている御本殿すべてを立て直すことは、期間的にも予算的にも無理があるので、1774年に造営された御本殿を60年ごとに修理することで、遷宮を行ってきたという。

 御本殿の修理の中でも、最も重要なのが屋根の修理だ。出雲大社に行った人ならば、想像が付くと思うが、本殿の高さは約24メートル、神社としては破格の大きさである。それを覆う屋根は、ヒノキの皮を使った檜皮葺(ひわだぶき)で、約40トンのヒノキの皮を使用しているという。

 伊勢神宮をはじめとする国内の多くの神社では、ススキやチガヤを使う茅葺(かやぶき)となっている、檜皮葺は、ヒノキの皮のみを使うため、茅葺に比較して、その材料の確保が格段に大変になる。しかも檜皮葺に用いる皮は、若い出来立ての皮でなくてはならない。それらの中から、質のよい一部だけが、檜皮葺に使われる。年月が経って、油分が抜けてしまった皮では、雨をはじくことができないからだ。しかもヒノキの皮は、削いでから再生するまでに10年かかる。40トン分のヒノキの皮を集めるだけでも、とてつもない作業であることが想像できるだろう。

 出雲大社では、山林を寄進してくれた方もいるため、その土地のヒノキを使わせてもらっているが、それでも必要量の何十分の一にしかならないという。したがって、日本全国を探して適したヒノキの皮を集め、屋根の修復に使っているという。それに要する年月は数十年。つまり、今の遷宮が終わったらすぐにまた取り掛からなくてはならない案件なのである。

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渡部 幹(わたべ・もとき)
[モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授]

UCLA社会学研究科Ph.Dコース修了。北海道大学助手、京都大学助教、早稲田大学准教授を経て、現職。実験ゲームや進化シミュレーションを用いて制度・文化の生成と変容を社会心理学・大脳生理学分野の視点から研究しており、それらの研究を活かして企業組織にも様々な問題提起を行なう。現在はニューロビジネスという大脳生理学と経営学の融合プロジェクトのディレクターを務めている。代表的な著書に『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(共著、講談社刊)。その他『ソフトローの基礎理論』(有斐閣刊)、『入門・政経経済学方法論』、『フリーライダー あなたの隣のただのり社員』 (共著、講談社)など多数。


ニューロビジネス思考で炙り出せ!勝てない組織に根付く「黒い心理学」 渡部幹

この連載の趣旨は、ビジネスマンのあなたが陥っている「ブラック」な状況から抜け出すための「心」を獲得するために、必要な知識と考え方を紹介することにある。社員を疲弊させる企業が台頭する日本社会では、「勝てない組織」が増えていく。実はその背景には、マクロ面から見た場合の制度的な理由がある一方、日本人の持つ国民性や心理もまた、重要な要因として存在する。そうした深いリサーチが、これまで企業社会の中でなされてきただろうか。本連載では、毎回世間で流行っているモノ、コト、現象、ニュースなどを題材として取り上げ、筆者が研究する「ニューロビジネス」的な思考をベースに、主に心理学や脳科学の視点から、その課題を論じていく。あなたは組織の「黒い心理学」を、解き明かすことができるか。

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