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田岡俊次の戦略目からウロコ

東シナ海ガス田で中国の脅威を煽ることの無意味さ

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
【第54回】 2015年8月6日
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東シナ海に設置された中国の海上プラットフォーム
写真:外務省HPより(防衛省提供)

 政府は7月21日、平成27年度「防衛白書」を発表したが、その表紙の裏には異例の「追記箇所」と題した紙片がはさみ込まれていた。中国に関する記述に「(20)13年6月以降には、東シナ海の日中中間線の中国側において、既存のものに加え、新たな海洋プラットフォームの建設作業などを進めていることが確認されており、中国側が一方的な開発を進めていることに対して、わが国から繰り返し抗議をすると同時に、作業の中止などを求めている」との記述を挿入するものだった。

 翌22日、外務省は2013年以降、東シナ海に新たに設置された天然ガス採掘用の海上プラットフォーム16基の写真(海上自衛隊機が撮影)を公表した。中国が東シナ海で天然ガスの生産を始めたのは1999年であり、2004年には日中の排他的経済水域(EEZ)が重なる地点、日中の中間線から僅か1.5km中国側の「春暁」(日本はのち「白樺」と命名)の開発を始めたため、日本では「日本側のガスを吸い取られる」との声が高まった。

 中国の海上プラットフォームが2013年に3基、14年に5基、今年に4基増設されたことも以前から分かっていたが、これまでの防衛白書は例年「中国は東シナ海や南シナ海において石油や天然ガスの採掘およびそのための施設建設や探査を行ってる」と述べるだけで、特に防衛上の問題として取り上げたり、非難がましい記述はせず、今年度版も本来は同じ記述をしていた。

 ところがそれが刷り上がった後に、急遽「追加」をしたのは、安保法制に対する国民の反対が激しいため、と考えられる。7月20日発表の産経・フジテレビ系列の合同世論調査でも、その法制が「必要」が42.1%、「不必要」が49.7%、「合憲」が21.9%、「違憲」は59%に達し、安倍内閣の支持率は39.3%に急落し、不支持が52.6%と逆転した。このため、政府は国民の「理解」を深めようと焦り、ガス田問題に焦点を合わせたのだろう。

 従来「防衛白書」がこの問題を取り上げてこなかったのは、日本側が主張するEEZ境界線である「日中中間線」に中国が配慮して、その中国側でガス田開発を行っているためだ。

 1982年に採択された国連海洋法条約では「基線」(海岸線、海岸が複雑な場合は突端を直線で結んだ線)から200海里(約370km)をEEZとして、水中、海底、地下の天然資源(魚、貝など生物資源を含む)の探査、利用、管理、環境保護を行える。対岸や隣国とEEZが重なる場合には条約や国際慣習により双方の合意で境界を決めるが、合意に達せない場合は第3国による調停や国際海洋裁判所などの裁判で決める、という趣旨だ。

 日中のEEZは東シナ海で重なるため両国は1998年から協議を行ったが、いまだに境界は確定せず、日本側は暫定的に奄美諸島西方の硫黄鳥島、沖縄西方の伊平屋島、粟国島、尖閣諸島などと中国の間の中間点を結んだ「日中中間線」を設定し、これを日本のEEZの限界としている。これは客観的に見ても妥当な暫定線と言えようが、日本が主張する線にすぎない。

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田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]

1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、編集委員、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。


田岡俊次の戦略目からウロコ

中国を始めとする新興国の台頭によって、世界の軍事・安全保障の枠組みは不安定な時期に入っている。日本を代表する軍事ジャーナリストの田岡氏が、独自の視点で、世に流布されている軍事・安全保障の常識を覆す。さらに、ビジネスにも役立つ戦略的思考法にも言及する。

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