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「日本」を考える~私たちはどこへ向かうべきか

なぜ安倍首相は「安保法案」で生き急ぐのか?
尋常ではない執念の背景

ジャーナリスト・嶋矢志郎

嶋矢志郎 [ジャーナリスト]
【第5回】 2015年8月12日
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安保法案審議で唯我独尊の安倍首相
安寧な社会基盤の浸食、崩壊への危惧

安保法制に反対するデモは現在も全国各地で続いている Photo:Alessandro Di Ciommo/Aflo

 よこしまな悪知恵を奸知(かんち)といい、自分の都合の良いように無理に理屈をこじつけることを牽強付会(けんきょうふかい)と言う。それに、策略もあれば、虚言もあり、侮辱もある日常茶飯である。

 これは、この度の安全保障関連法案の審議における安倍首相の言動を見聞していて、率直に感じた筆者の感想である。いずれも厚顔無恥な立ち居振る舞いである。少なくとも、選良であるはずの政治家が臆面もなく繰り出す手立てではない。日本の内閣総理大臣が頼る政治手法であり、常とう手段となれば、何をか言わんや、である

 初めに「結論ありき」で、その結論への手続きを急ぐあまりに聞く耳を持たず、「憲法の枠内であり、合憲であると確信している」「専守防衛に、いささかの変更もない」「戦争に巻き込まれることは絶対にない」式の断定的な口調で異論を封じ、「私は総理大臣だから正しい」とまで言い切る唯我独尊型の政治手法が、この近代民主社会の中枢で、なぜ罷り通るのか。日本政治の劣化を痛感する。

 安保法案の審議を俯瞰しながら禁じ得ないのは、日本および日本人が戦後70年の歳月をかけて築き上げてきた立憲主義や民主主義をはじめ、自由や人権、さらには法の支配をも含め、いわば戦後の日本型の近代民主社会の下で初めて平和と繁栄の二兎を追い続け、曲がりなりにも安寧な暮らしを享受してきた社会基盤が浸食され、崩壊していくのではないか、との危惧である。

しまや・しろう
ジャーナリスト/学者/著述業。東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。日本経済新聞社(記者職)入社。論説委員兼論説副主幹を最後に、1994(平成6)年から大学教授に転じ、芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科教授などを歴任。この間に、学校法人桐朋学園理事兼評議員をはじめ、テレビのニュースキャスターやラジオのパーソナリティなどでも活躍。専門は、地球社会論、現代文明論、環境共生論、経営戦略論など。著書・論文多数。

 とりわけ、安保法案が仮に成立した暁には、集団的自衛権の行使から、それに伴う海外派兵、さらには「日本と密接な関係にある」他国の戦争への参戦に至るまで、それまでの「しない」から「する」へ、真逆の大転換となる。「新3要件」を満たした場合に限られるとはいえ、実際には時の政権の「総合的な判断」に委ねられるため、極めて恣意的で、歯止めがないに等しい。

 これは、明らかに憲法9条の下での専守防衛の日本的平和国家路線からの逸脱であり、日本及び日本人が世界に誇り得た「戦争をしない国ニッポン」の平和国家としての揺るぎない国際的なイメージと信用が一気に失墜する恐れがあり、この不安感も拭えない。

 そもそも何のための安保法案で、なぜ今、急ぐ必要があるのか。確かに、日本を取り巻く国際環境の変化は著しい。中国の経済力と軍事力の急拡大、それに伴う陸海にわたる膨張主義、北朝鮮の核開発、米国の相対的な覇権力の低下など、周辺地域での不安定要素は急増している。

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ジャーナリスト/学者/著述業。東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。日本経済新聞社(記者職)入社。論説委員兼論説副主幹を最後に、1994(平成6)年から大学教授に転じ、芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科教授などを歴任。この間に、学校法人桐朋学園理事兼評議員をはじめ、テレビのニュースキャスターやラジオのパーソナリティなどでも活躍。専門は、地球社会論、現代文明論、環境共生論、経営戦略論など。著書・論文多数。


「日本」を考える~私たちはどこへ向かうべきか

異例の延長国会で審議が続けられる安保法制、日中・日韓関係の緊張が続くなかで予定される安倍首相の「戦後70年談話」をはじめ、戦後長らく続いてきた日本の国家体制や国のポリシーを問い直そうとする動きが、足もとで出始めている。戦後70年を迎えた今、我々日本人が改めて日本という国の「形」を問い直すべき時期に差しかかっている。これまでの歴史的教訓も踏まえながら、日本はこれからどんな道を歩んでいくべきだろうか。様々な分野の識者が、独自の視点から「持ち続けるべき日本観」「新しい日本観」について提言する。読者諸氏も、ともに「日本」を考えてほしい。

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