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森達也 リアル共同幻想論

大相撲夏場所、青い龍のマスクの力士が乱入!?

森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家]
【第33回】 2010年3月26日
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 2010年大相撲夏場所。序盤戦から上位力士たちの勝敗は荒れ模様。千秋楽を迎えたこの日、国技館は異様な熱気に包まれていた。なぜなら、横綱白鵬、大関日馬富士、大関琴欧州、関脇把瑠都の4力士が、すべて12勝2敗と横一線で並んでいたからだ。

 まずは把瑠都と日馬富士の一戦は、水入りの大相撲で把瑠都の豪快な上手投げが決まり、結びの白鵬と琴欧州の一戦は、白鵬の内無双がやはり豪快に決まった。

 これより優勝決定戦。白鵬と把瑠都が土俵に上がる。二人とも肌は紅潮している。場内はかつてないほどの興奮状態。何度かの仕切り直しを繰り返して、いよいよ制限時間いっぱいが近づいてきた。

 土俵下にいる東西の呼び出しが立ち上がる。立行司木村庄之助の軍配がかえる。いよいよ世紀の一戦が始まるかと思われたそのとき、東側の花道がどっとどよめいた。蹲踞の姿勢を取りながら一瞬だけその方向に視線を送った白鵬は、驚いたように口を開けてその場に立ち上がった。これを見た把瑠都も、思わず立ち上がりながら振り向いた。

 のっそりと花道に現れたのは一人の力士だった。素肌にまわしを巻いている。その意味では臨戦態勢だ。でも顔はわからない。なぜなら青い龍のマスクをしているからだ。このときに実況を担当していたNHKの枝川惣一郎アナウンサーが、「いったい誰だあ!」と絶叫する。極度に興奮しているため、その声は半分以上裏返っている。

 「何者だ! 龍のマスクです! 青いドラゴンです! いま国技館は揺れています! まさしく鳴動しています! 大相撲の歴史始まって以来です! ドラゴン仮面の力士が、国技館に現れました。千秋楽の聖なる優勝決定戦! もしこれを妨害するならば、相撲の神であるタケミカヅチとタケミナカタの神罰が落ちるに違いない! ああ! ブルー・ドラゴン仮面が走ってきました!荒ぶる魂が乗り込んできた! これは黒船か! 下克上か! それともパールハーバーか! 迎え撃て白鵬! 撃退しろ把瑠都!大和魂を見せつけろ! 国技を守れえええ」

 説明するまでもないかもしれないが、枝川アナウンサーは隠れ
プロレスファンだったのだ。

野球はアメリカの国技、相撲は日本の国技!?

 「いや、あんた、国技を守れと言うけれど、大相撲は正式な国技じゃないからね」
解説の玉の山梅吉が、たまりかねたように横から口を挟む。きっとなって玉の山を見つめる枝川の二つの瞳孔が収縮している。

 「黙れ国賊。ここはどこだ! 国技館じゃないか」

 黙れと言われて玉の山もかっとなった。

 「何言っているんだおまえは。国技という正式な種目はないけれど、野球がアメリカの国技でアイスホッケーがカナダの国技であるという意味では、確かに相撲は国技みたいなものだとわしは言おうとしたんじゃ!」

 「ウィキペディアからコピペしたみたいな言い方しやがって。揚げ足取りはもう十分だ。今日こそ言うぞ。この一世一代の実況に水を差さないでくれ!」

 「黙って聞け。国技だけじゃない。あんたはさっき、大和魂を守れと言ったけれど、土俵にいるのはモンゴルの横綱とエストニアの関脇だ。今場所で優勝に絡んだ他の二人も、ブルガリアとモンゴル生まれだ。大和魂ったってそれは無理だ」

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森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家]

1956年生まれ。テレビディレクター、映画監督、作家。ドキュメンタリー映画『A』『A2』で大きな評価を受ける。著書に『東京番外地』など多数。


森達也 リアル共同幻想論

テレビディレクター、映画監督、作家として活躍中の森達也氏による社会派コラム。社会問題から時事テーマまで、独自の視点で鋭く斬る!

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