社長の鶴の一声で、何の経験もない人をその部署の管理職に据えることもしばしばあった。中には社長や専務の「愛人」と噂される女性たちも。その都度、人事部員は関係部署の管理職などにお詫びをすることに

 社内において人事権を握った者は強い。採用、配属、評価、異動、リストラなど、あらゆる面から社員や組織をコントロールすることができる。こうした中でメディアが報道で取り上げる人事と言えば、リストラや労使紛争、成果主義などお決まりのものが多い。

 しかし実際は、多くの会社員が一喜一憂するのは人事の処遇や待遇であり、その権限を握る者への迎合であり、失望や諦めである。これらのホンネのところが、もっと公にされるべきなのではないだろうか。

 今回は、高齢となりながらもやりたい放題の社長と、その威を借る専務のコンビを紹介したい。この2人による「長期政権」に不満や憤りを持ち、退職した管理職や役員らの話をもとに、腐敗し切った人事の実情を炙り出したい。


 「なんだ、この人事リストは!?」
長期政権で人事を仕切る老害社長

 また始まった。丸い背中をさらに丸めて、社長が言い始める――。

「あいつは、どうなったんだ?このリストにないということは、今回の人事異動の対象にはならないのか?それじぁ、この前の話とは違うだろう……」

 社長は、70代半ばが見えつつある。就任18年を超える「長期政権」を敷いている。社内にライバルはいない。この十数年で、同世代のほとんどが退職したり、辞めるように仕向けられた。社内労組はあるものの、春闘以外、何ら機能していない。

 その横に専務の白石(59歳)が座る。この男が「長期政権」を支える曲者なのだが、特に女性社員は彼の実態に気づいていない。女性の前では態度が豹変し、ナイスミドルを気取るからだ。

 この専務は、小さな頃から家庭で極度に甘やかされてきたと、社内では噂される。自分が周囲から悪く思われることを徹底して嫌う。会社では、常に「いい人」と思われるように日々、画策する。白石はしばらく黙っていた後、早速社長の側に回った発言を人事総務部長に対して行なう。

「部長は、人事異動リストを早くつくり直したほうがいい」

 社長と専務のコンビの前に、人事総務部長の森(49歳)は引き下がるしかない。心の中では、こう言いたかった。

「ふざけるな!1週間前にお前が『このリストでいい。役員会で、社長の了解をとる』と言い切ったじゃないか。社長がノーと言えば、それを説得するのがナンバー2であるお前の仕事だろう?」