新設住宅着工件数の伸び悩みや少子高齢化の影響により、国内需要が低迷している住宅設備業界で、名古屋に本社を置くガス機器メーカーのリンナイは5期連続の増収を続ける。2005年の就任以来、営業利益率を重視する経営へシフトしてきた内藤弘康社長に、品質重視のルーツから最近の問題意識までを聞いた。

──4月1日よりスタートした新中期経営計画では、「進化と継承」を掲げています。一般的にはまず“継承”が来て、その次に“進化”が来る順番になると思うのですが、これには何か意味があるのですか。

ないとう・ひろやす/1955年、兵庫県生まれ。東京大学工学部を卒業後、日産自動車に入社。主にトランスミッションの設計に従事する。83年、創業者の次男である内藤明人会長の長女との結婚を機にリンナイへ入社。幅広い部署を経験した後、91年に取締役新技術開発部長に就任。以降、常務取締役経営企画部長兼総務部長などを経て、2005年11月に代表取締役社長となる。長年の気分転換は「吉村昭などの歴史小説を読むこと。その舞台を訪ねて思いを馳せること」だったが、最近では「モーツァルトのピアノ協奏曲やバイオリン協奏曲などを聴きながら、黒漆と筆で書かれた山形県天童市産の将棋駒セットを眺めること」
Photo by Mikio Usui/Studio Beans

 私としては、どこか当たり前の響きがある“継承”よりも、未来を見据えた“進化”という言葉を先に持ってこないと、会社のエネルギー感のようなものが出せないことから、そのようにしました。

 確かに、当初の案は「継承と進化」だったのですが、進化の方を前面に打ち出したかったのです。もちろん、1920年(大正9年)の創業以来、営々と築いてきたガス関連の技術はしっかり継承しつつ、ガスだけではない“総合熱エネルギー機器メーカー”に進化・発展するという意思を込めています。

──そういう意味では、2005年の社長就任以来、根っこにある危機感は通底しています。となると、今回、あらためて進化を前面に出す裏側には、“なかなか変われない老舗メーカーの悩み”があるのではないかと推察します。

 いやいや。ガス機器がらみではありますが、これまでも私たちはたくさんの試行錯誤を続けてきました。例えば、4月に第3世代の機種が発売されたばかりの「エコワン」(ハイブリッド給湯暖房システム)は、端的に言えば“電気とガスの良いところ取り”をした新型システムで、1次エネルギー効率が138%と世界最高水準を誇る省エネ機器であり、世界初となる製品でもあります。

 もともとは、電力会社の“オール電化攻勢”に対抗するために開発された製品でしたが、その後も改良を重ねたことにより、今では「エコキュート」(ヒートポンプの技術を利用して空気の熱でお湯を沸かす電気給湯器)のエネルギー効率を上回っています。エコワンは、私たちの胸を張れる進化の1つです。

“不良品ゼロ”のルーツは
航空機の部品製造だった

──リンナイの創業者は、技術を担当する内藤秀次郎さんと営業を担当する林兼吉さんで、2人の姓から1文字ずつ取って「林内商会」として発足したそうですね。内藤さんが初代社長、林さんが2代目社長となっています。

 創業者の2人は、竹馬の友、すなわち同じ地域で生まれ育った仲で、ともに名古屋ガス(現在の東邦ガス)に勤めていました。最初は、屋号を「内林商会」にしたかったそうですが、当時イタリアに「リネー」というガス機器メーカーがあったことから、その成功にあやかりたいと考えて「林内商会」とした経緯があるそうです。ようやく、ガスの利用が黎明期を迎えた大正時代の話です。