新設住宅着工件数の伸び悩みや少子高齢化の影響により、国内需要が低迷している住宅設備業界で、名古屋に本社を置くガス機器メーカーのリンナイは5期連続の増収を続ける。2005年の就任以来、営業利益率を重視する経営へシフトしてきた内藤弘康社長に、品質重視のルーツから最近の問題意識までを聞いた。
──4月1日よりスタートした新中期経営計画では、「進化と継承」を掲げています。一般的にはまず“継承”が来て、その次に“進化”が来る順番になると思うのですが、これには何か意味があるのですか。
Photo by Mikio Usui/Studio Beans
私としては、どこか当たり前の響きがある“継承”よりも、未来を見据えた“進化”という言葉を先に持ってこないと、会社のエネルギー感のようなものが出せないことから、そのようにしました。
確かに、当初の案は「継承と進化」だったのですが、進化の方を前面に打ち出したかったのです。もちろん、1920年(大正9年)の創業以来、営々と築いてきたガス関連の技術はしっかり継承しつつ、ガスだけではない“総合熱エネルギー機器メーカー”に進化・発展するという意思を込めています。
──そういう意味では、2005年の社長就任以来、根っこにある危機感は通底しています。となると、今回、あらためて進化を前面に出す裏側には、“なかなか変われない老舗メーカーの悩み”があるのではないかと推察します。
いやいや。ガス機器がらみではありますが、これまでも私たちはたくさんの試行錯誤を続けてきました。例えば、4月に第3世代の機種が発売されたばかりの「エコワン」(ハイブリッド給湯暖房システム)は、端的に言えば“電気とガスの良いところ取り”をした新型システムで、1次エネルギー効率が138%と世界最高水準を誇る省エネ機器であり、世界初となる製品でもあります。
もともとは、電力会社の“オール電化攻勢”に対抗するために開発された製品でしたが、その後も改良を重ねたことにより、今では「エコキュート」(ヒートポンプの技術を利用して空気の熱でお湯を沸かす電気給湯器)のエネルギー効率を上回っています。エコワンは、私たちの胸を張れる進化の1つです。
“不良品ゼロ”のルーツは
航空機の部品製造だった
──リンナイの創業者は、技術を担当する内藤秀次郎さんと営業を担当する林兼吉さんで、2人の姓から1文字ずつ取って「林内商会」として発足したそうですね。内藤さんが初代社長、林さんが2代目社長となっています。
創業者の2人は、竹馬の友、すなわち同じ地域で生まれ育った仲で、ともに名古屋ガス(現在の東邦ガス)に勤めていました。最初は、屋号を「内林商会」にしたかったそうですが、当時イタリアに「リネー」というガス機器メーカーがあったことから、その成功にあやかりたいと考えて「林内商会」とした経緯があるそうです。ようやく、ガスの利用が黎明期を迎えた大正時代の話です。