今年で11年目を迎えるロングセラー手帳『和田裕美の営業手帳』の著者和田裕美さんの猛烈ラブコールにより実現した、ウェブ界のカリスマ林雄司さんとの対談の後編。林さんが編集長を務めるサイト『デイリーポータルZ』の記事はどのようにして作られるのか、いくつかの人気記事をご紹介しつつ語り合っていただきました。(取材・構成/両角晴香 撮影/宇佐見利明)
面白ければ
失敗してもいい
和田 『デイリーポータルZ』の青いドレスの企画『あのドレスはいつ白と金に見えるのか』は最高に面白かったです。『tumblr.(タンブラー)』で話題になった青いドレスをわざわざイギリスから取り寄せて、「青と黒の地色は、どうやったら白と金に見えるか」を林さん自らが試着して実験する記事です。でもこれって、見る分には面白いのだけど、やってる方は、相当なエネルギーを使いますよね。
林 まあ、そうですね(笑)。
和田 ビジネスの常識としては「ムダを省いて効率化を図る」ことだと思うけど、林さんがなさっていることは、真逆の「効率性を度外視したムダ」なのかと……。
林 それはね、効率化なんて考えていたら、つまらないコンテンツになりますから。
和田 うんうん。
林 たとえば、「ここは文体を統一した方がいいんじゃないか」とか真面目なことを言ってマニュアル化したところで面白くならないのです。変にルールを作らず、ライターひとりひとりが面白いと思うことを突き抜けてやる方が絶対に笑える。
和田 前回、「一人ですべてコントロールできるのがネットの特長」だとおっしゃっていましたね。たしかに、面白いことを自由にやらせてもらえるなら、ライターさんも本気になって取り組めそうです。労力もいとわないというか。
林 そうなのですよ。段取りをして、アウトプットをどういう風にするか、ウェブだと写真のトリミングや改行位置までコントロールできるので、みなさん一生懸命やるのですよね。
和田 そうかあ。
林 テレビなどの大きなメディアは、関わる人が多い分、制約もあります。色んな人の意見が入ることでエッジがどんどんとれていって、つまらないものになると聞いたことがあります。
和田 なるほど。手が込んだものでいうと、『新しい壁ドンを考える』という企画もすごかった。ひび割れの部分は8時間もかけて地道に手描きされたのですよね。
林 そうです。意外と地味な作業しています。
和田 1日中こもって、黙々と割れ目を描くなんて、普通はできません。
林 でも、作る過程も記事に書けますからね。
和田 ああ?!
林 完成形だけじゃなく、プロセスもネタなのです。時間をかければかけるほど、書くことは増えますし、文章として面白くなれば、失敗してもいい。さんざん苦労して「動きませんでした!」みたいな(笑)。