アジアの新興国が苦境に立たされている。中国の成長減速の影響、そして米国の利上げ観測による資金流出で、いずれの国も景気減速と通貨の急落に見舞われているのだ。インドネシアは通貨ルピアが1998年のアジア通貨危機以来の水準に下落、現在それらの影響を最も典型的に被っている国と言える。インドネシア中央銀行のアディチャスワラ上級副総裁に、現状と今後の方策を聞いた。(まとめ/ダイヤモンド・オンライン 河野拓郎)

現在の不安定な状況は一時的
金融市場も中国経済もいずれ落ち着く

インドネシア・ルピアの下落はアジア諸国の通貨の中でも特に著しい

──日本企業は、その成長ポテンシャルの高さからインドネシア経済に大きな期待を持っています。一方で、足元では輸出や内需の減速に懸念も出ています。現状についての認識と、今後の見通しをお聞かせください。

 少し過去に戻ったところからお話ししたいと思います。

 今から約20年前、1998年まで、インドネシアの成長率は7~8%で推移していましたが、その成長の源泉は、消費であり、民間による投資であり、製造業であり、そして政府の支出でした。

 そこに、コモディティブームが到来しました。時期としては2000年~2011年頃でしょうか。中国の高成長に伴い、石炭、天然ガス、パーム油、ニッケル、鉄鉱石などの価格が非常に大きく上昇した。その間に、経済の牽引力が変わったのです。コモディティへの依存度が高くなり、ブームを謳歌する一方で、インドネシアは製造業の強化をちょっと忘れてしまった。

Mirza Adityaswara
1965年生まれ。インドネシア大学経済学部卒業、オーストラリアのマッコーリー大学修士課程(応用ファイナンス)修了。住友ニアガ銀行、クレディ・スイス証券インドネシア、国有銀行最大手のマンディリ銀行チーフエコノミスト等を経て2013年10月より現職。預金保険機構のトップも務める。

 そして現在はご存じの通り、中国経済が減速し、コモディティ価格も下落しています。インドネシア経済を評価するときには、セクターごと、地域ごとに見ていただく必要がありますが、コモディティへの依存度がより高い、スマトラやカリマンタンの成長率が下がってきています。ジャワやスラワジなどは依然として健全な成長を続けているのですが、結果として、全体の成長率も2011年の6.5%から15年上半期は4.7%まで下がってしまいました。

 米国の金利がどうなるかという不確実性も、やはり足を引っ張っていると思います。この6年というもの、0.25%といった超低金利が続いてきたのが、2~3%に上昇するという見方が、新興国諸国でのボラティリティを生み出しています。このボラティリティでは、ちょっと投資を控えよう、ということになる。

 しかし、この状況は一時的なものだと考えています。実際には、より安定に近づいているのではないでしょうか。米国はそのうち利上げするでしょうが、それにより不確実性が除去されれば、金融市場は安定します。中国も今、景気回復のために必死になって刺激策を取っていますから、いずれ安定するでしょう。