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対談 中国民主化研究
【第6回】 2015年9月10日
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加藤嘉一

米国の民主主義に触れることで、
中国人留学生はより“愛国的”になる
——東京大学名誉教授・北岡伸一×加藤嘉一

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今年は終戦から70年を迎える重要な年であり、特に中国・韓国といかなる関係を構築するのかが改めて議論されている。揺れる巨人・中国はどこに向かっているのか、そして、日本は中国といかに向き合えばよいのか。東京大学名誉教授であり、「日中歴史共同研究委員会」日本側座長や「21世紀構想懇談会」座長代理を務めた北岡伸一氏に、加藤嘉一氏が聞いた。対談の第3回。

チャイナモデルへの信仰が増す中国

加藤 先生は共同歴史研究という観点・立場から、日本側座長として中国側と対話をなさってきました。歴史的に見ると、中国では知識人が抑圧されてきました。1898年に設立された北京大学の歴史を振り返っても、蔡元培が学長だったころ(1916〜1927年)は、自由や兼容を理念として掲げた同大学が思想的に最も輝いた時期とされます。しかし、特に学者や学生にとってのトラウマとなった1989年の天安門事件から25年以上が経ったいま、そんな自由で民主的な北京大学の文化は見る影もなくなっている気がします。

 北岡先生が普段対話されている知識人たちから、この社会を発展させていくような、たとえば学問や表現の自由を実現すべく、政権や為政者たちにクリティカルな問題提起や民主的な権利欲求を投げかけていくパワーやポテンシャルを感じることはありますか?

北岡伸一(きたおか・しんいち)
1948年、奈良県生まれ。76年、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、法学博士。立教大学教授、東京大学教授を経て、現在、国際大学学長、政策研究大学院大学学長特別補佐・特別教授、東京大学名誉教授を務める。その間、04‐06年には日本政府国連代表部次席大使を務めたほか、日中歴史共同研究委員会日本側座長などを歴任する。著書に『清沢洌―外交評論の運命』(増補版、中公新書、サントリー学芸賞)、『日米関係のリアリズム』(中公叢書、読売論壇賞)、『自民党―政権党の三八年』(中公文庫、吉野作造賞)など多数。

北岡 当然ですが、共同研究の人選はとても政治的なわけです。ほとんどが社会科学院の先生なんですよ。これは政府直轄ですからね。それ以外もいますが、すべて北京の人であり、地方の人はいません。また、集まったのはみな近現代史の専門家です。近現代史を専門にやっている人がこぞってこれに入りたいとやって来て、あぶれた人は古代の部に入れられました。また、若手が自由かというと、そうでもない。昇進がかかっているので、公式見解以外のことは言えません。

 大学も地方に行くとやや自由になりますよね。また、中国の場合、地域のギャップがかなり大きい。上海なんかに行くと、彼らは北京の連中は勝手なことをしていると思っているわけですよ。それが将来の一つの可能性だと思っています。つまり、地域差を活かすことです。

 中国国内での大きな変化は、やはりリーマン・ショック以後に訪れたと思います。それまでは基本的に、メッセージの普遍的価値はわかるけども、われわれはまだそういう段階ではないという留保を付けていました。しかし、2008年くらいからは、「いやいや、われわれのモデルのほうが優れている」という者が増えてきました。

加藤 私もそう思います。

北岡 たとえば、米国に留学している中国人について、加藤さんはどう見ていますか?彼らは米国についてどう見ているんだろうか?

加藤 拙書『中国民主化研究』(ダイヤモンド社)を執筆する過程で、現在スタンフォード大学で研究されているフランシス・フクヤマ先生の元を訪れ、いろいろと話を伺ってきました。彼は、中国人留学生を巡る環境に関して、25年前といまでは異なっていると見ています。当時であれば米国の自由民主主義の価値観は素晴らしいと心から尊敬して、将来、こういう社会を実現したいと思って帰っていった、と。しかし、いまは逆に中国への自信を深めて、より愛国的になって帰っていくという話をされていました。

北岡 私もそう感じています。これは、まったく予想外でした。中国のモデルのほうがいいということを公然と言う人たちが増えてきたんですから。

加藤 私は、最近までワシントンにあるジョンズ・ホプキンス大学で研究していました。ハーバード大学同様、そこでも米国の教育を受け、世界各地からの学生との議論を経て、逆に愛国的になって祖国へ帰っていく学生が数多く見られました。学生たちに話を聞くと、西側の制度や価値観自体に対しては一定の評価を与える一方で、「中国の国情を考えるとチャイナモデルしかない。西側の制度や価値観は中国には符合しない」と言い切る学生が多いと感じます。国内外で暮らす“中華民族”全体として見れば、そんな学生ですらリベラルに属すると言えるのかもしれません。

 四川省出身のある男子学生は、「自分たちは中産階級以上の家庭に生まれて、縁あって米国に来ることができた。私たちのような人間が本国に帰り、中国のしかるべき発展に貢献していかなければいけない」と語っていました。ただここまでですね。「中国も米国のような、自由で民主的な社会を実現するべきだ」と公然と語る中国人学生に、私は米国滞在の2年10ヵ月で出会ったことがありません。

北岡 戦前の日本でも、米国の自由はいき過ぎだと言った人も多いんですよ。いまの中国は、体質的にも本質的にも、西洋的なさまざまな価値に対して拒絶的になっていると感じますね。それは加藤さんのおっしゃる通りです。

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加藤嘉一 

1984年生まれ。静岡県函南町出身。山梨学院大学附属高等学校卒業後、2003年、北京大学へ留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。北京大学研究員、復旦大学新聞学院講座学者、慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)を経て、2012年8月に渡米。ハーバード大学フェロー(2012~2014年)、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院客員研究員(2014〜2015年)を務めたのち、現在は北京を拠点に研究・発信を続ける。米『ニューヨーク・タイムズ』中国語版コラムニスト。日本語での単著に、『中国民主化研究』『われ日本海の橋とならん』(以上、ダイヤモンド社)、『たった独りの外交録』(晶文社)、『脱・中国論』(日経BP社)などがある。

 


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