2009年6月、金融庁の企業会計審議会より「わが国における国際会計基準の取り扱い(中間報告)」(いわゆるロードマップ案)が発表されて以来、IFRS(International Financial Reporting Standards:国際財務報告基準)に関するビジネス界の関心が急速に高まっている。

 上記中間報告では、日本の上場企業に対して2015年あるいは2016年にIFRSが義務化されることが提案されている。最終決定は2012年中に行われることになっているが、多くの企業がIFRS対応のための準備を開始するとともに、金融庁をはじめとする様々な団体・組織も当該義務化を円滑に迎えるための準備支援作業を本格化させている。

 IFRSの義務化は、早期適用を目指す企業や当該義務化の対象となっている企業に様々な影響を幅広く与えると想定されている。“幅広く”というのは、会計制度の変更ではあるが、その影響が単に経理部門や内部監査部門に限定されることはなく、企業内の各部門にも影響が及ぶことを意味している。また上記以外の企業(非上場企業)もこの動きに決して無縁ではない。

 そこで本連載ではこれから十数回にわたって、IFRSが各部門にどのような影響を与え、それぞれの部門ではどのような備えをしておけば2015-16年のIFRS元年を円滑に迎えることができるのか、議論していきたいと思う。

 第1回となる今回は、「経営とIFRS」をテーマに、IFRSが経営全般(非上場企業も一部含む)に対して、どのような影響を与えるのかを主に議論したい。

企業全体で求められる
IFRSへの理解と“将来情報”の生成

 経営全般に影響を与える『IFRS』とは、いかなるものか?

 IFRSとは、その名のとおり、世界各国の資本市場で統一的に利用されることを想定して策定された財務報告基準である。したがって、そのほかの目的で策定される会計基準とは異なる特徴を持っている。以下の3つのポイントである。

1.原則主義(Principle Based)
2.B/S(公正価値)重視
3.国際基準

 原則主義とは、日本や米国の会計基準がその個々の取り扱いに関して詳細な“ルール”を定めているのと比較して、あくまでも典型的な取引を前提にした“原則”のみを会計基準上で定義するものである。つまり、各企業の様々な取引形態や経済状況に応じて、その“原則”を適切に理解して会計処理を実施することが求められている。

 各企業の経営者は、ルール主義による会計基準であれば該当する取引に関する会計処理方法を会計基準の中から“見つける”ことにより、適切な会計処理を行うことができた。しかし、原則主義の会計基準では“原則を正しく理解して当該取引に関する適切な判断”を行い、会計処理方法を自ら決定することが必要となる。