成長戦略の柱としてインフラ輸出を掲げる日本政府は、この夏、インドネシアの高速鉄道受注をめぐり中国と激しく競い合った。終盤、中国優勢に傾いたが、結末は計画自体が白紙撤回に。その裏には、日本政府の猛烈な巻き返しがあった。(「週刊ダイヤモンド」編集部 清水量介)

2015年3月、突如、中国と高速鉄道建設の覚書を締結したジョコ大統領(左)と習近平国家主席。日本は猛烈な巻き返しでこの覚書を覆した Photo:AFP=時事

「痛み分けのように報道されているが、インドネシアの政府関係者は陰で、“日本が勝った”と言っている」(インドネシア政府と交渉に当たった日本政府関係者)

 今年9月、インドネシア政府は、日本と中国が受注を競っていたジャカルタ~バンドン間140キロメートルを結ぶ高速鉄道計画を撤回した。

 この計画をめぐっては、日本が数年前から新幹線方式で売り込みをかけ「独壇場」とみられていた。ところが、今年3月に突如、中国が参入を表明、終盤では中国有利との見方も浮上したほどだった。

 にもかかわらず、計画自体が撤回される事態となったのは、日本側が最後の2カ月間、水面下で猛烈な反撃に出たからだ。

 そもそもこの計画は、2014年まで10年間務めたユドヨノ前大統領が進めようとしていたもの。それが、新たにジョコ大統領が就任するや事態は一変、15年1月に計画の凍結が発表された。

 ところが、である。3月にジョコ大統領が訪中した際、突然、中国と高速鉄道建設の覚書を締結してしまう。この中で中国は、インドネシアの政府保証なしで総事業費の74兆ルピア(6200億円)の全額を融資するという“破格”の条件を提案した。

 事態の急展開に焦ったのは日本の政府関係者だ。すぐさま調査に乗り出してみると、おかしな事実が判明する。

 中国側が提示した需要予測や採算面といった条件が、日本の国際協力機構(JICA)がインドネシアで実施した調査結果と比較して、少しずつ良いものとなっていたのだ。

 しかし、日本側の調査内容は、インドネシア政府にしか提出していない。「その時点で、中国は現地調査を行っておらず、まるで日本の調査結果を把握しているかのような提案だった」(政府関係者)。交渉に当たっていた政府関係者の多くは、インドネシアから中国側に漏れたのではと疑った。