「わずかな人数によるミスで、 何万人もの真面目な従業員が一様に疑われることは正しいことではありません」と組織的関与を否定したヴィンターコーン社長だが、引責辞任に追い込まれた
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独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)が前代未聞の危機に直面している。米国の排ガス規制試験で不正を働いていたことが発覚、事態はマルティン・ヴィンターコーン社長の辞任劇に発展。今年1~6月の世界販売台数で初の首位に立ったVWの“天下”は、名実共に地に落ちた。(週刊ダイヤモンド編集部 池田光史)

 事態は急展開した。9月23日、独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)のマルティン・ヴィンターコーン社長は突如、声明を通じて辞任を表明。本稿執筆の24日時点で、25日には監査役会が後任の社長を決めるもようだ。

 今年1~6月の世界販売台数でついにトヨタ自動車を追い抜き、初の首位に立ったVWに何が起きているのか。事の発端は9月18日、米国の環境保護局(EPA)が公表した告知文だった。VWは2008年以降に米国で販売していたディーゼル車において、「defeat device」と呼ばれる違法ソフトウエアを搭載して排ガス規制に対応していたと認定されたのだ。

 一定の速度やエンジン回転数など、新モデル発売前の排ガス規制の試験には決められた“課目”がある。そうした試験時の特定状況を検知し、トルク(エンジンを回転させる力)や燃費などのエンジン性能を犠牲にすることで、技術的にトレードオフの関係にある大気汚染ガス排出量を試験時だけ低下させるプログラムをセットしていたことが発覚。実際の走行時には、窒素酸化物(NOx)などの排ガスを基準値の最大40倍も垂れ流していたという。

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 その影響たるや凄まじい。対象車はこの期間に販売された「ゴルフ」「ビートル」「ジェッタ」「パサート」などの主力車種に加え、グループ高級車部門のアウディ「A3」など計48万2000台。EPAは1台当たり最大約450万円もの制裁金を科すとしており、合計約180億ドル、日本円にして実に約2兆1600億円(!)という途方もない金額に膨れ上がる。

 これを受けて同社の株価は大暴落、21~22日の2日間で31%も下落した。それもそのはず。VWの14年の営業利益は126億9700万ユーロ(約1兆7000億円)、制裁金だけで年間利益が全て吹き飛ぶことになるのだ。

 VWの利益剰余金は14年12月時点で約712億ユーロ(約9.6兆円)あるため、即座に経営が立ち行かなくなるわけではない。とはいえ、その影響は米国にとどまらず、全世界に広がりつつある。21日以降、ドイツやイタリア、カナダ、韓国など各国当局が調査に乗り出す意向を表明した。

 さらにVW側も22日、同様の問題が発生し得る対象車は世界で約1100万台に上ると公表。7~9月期に約65億ユーロ(約8700億円)の引当金を計上したが、今後、積み増しを迫られる可能性もある。