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医療・介護 大転換

認知症ケアが「国家戦略」である英国に日本が学ぶべきこと

浅川澄一 [福祉ジャーナリスト(前・日本経済新聞社編集委員)]
【第40回】 2015年9月30日
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 9月20日まで1週間、高齢者ケアの視察のために英国のロンドンを訪ねた。この季節に3年続けている。今回は、認知症ケアに焦点を絞った。

日本では認知症家族を手助けする制度はまだ不十分

 英国独自の認知症専門機関「メモリーサービス」をはじめ、認知症高齢者が多く入居するナーシングホーム(日本の特別養護老人ホームにあたる)や家族介護者の支援団体などを回ってきた。

 なかでも、今回、特に強く印象に残ったのは、認知症の家族を手助けする専門の訪問看護師「アドミラルナース」の活躍ぶりだ。

 日本人には初耳の看護師名である。それもそのはず。ロンドンにある小さなNPOが生み出した草の根の市民活動なのだから。

認知症対策が国家戦略に
位置づけられている英国

 ロンドンの東北部、オリンピック会場になったストラットフォードからさらに先のグッドメイヤーズ病院。その広い敷地の一角に「レッドブリッジ・メモリーサービス」と書かれた案内表示が見える。レッドブリッジは地下鉄セントラル線の駅名でもある。

 看護主任のサリー・ブリーバントンさんがレッドブリッジ地区でのメモリーサービスの活動を振り返る。人口29万3000人の同区には65歳以上の高齢者は3万5600人。そのうち認知症を患うのは3008人だという。

 認知症と疑われる人は、かかりつけの家庭医から紹介されて、このメモリーサービスにやってくる。真っ先に血液検査を実施し、感染症などの病気があるかを調べ、その後に看護師などが自宅を訪問する。

 隣接のグッドメイヤーズ病院で脳の状態を見るためMRI撮影をしたり、医師が診断するなどしてアセスメントを行い、様々の職種のチームで議論し対応法を決める。痛みや不快な思いがあるか、服用している薬の種類は何か、さらにこれまでの病歴、生活履歴を調べる。

 抗認知症薬の投与を含めて3ヵ月間、本人に通ってもらって対応し、その後は家庭医に戻す。

 英国にはこうしたメモリーサービスが各行政区域に設けられている。認知症に特化して本人調査とケアの方法を提案し、数ヵ月間にわたって本人と向き合い関わる。

 英国は2009年に認知症対策を国家戦略として位置づけ、政府内に専門の部局を新設した。首相が先頭に立って認知症への対応に取り組んでいる。国家予算に占める認知症対応経費の増大に危機感が募り、政府が一丸となって始めた。その中の目玉政策がメモリーサービスである。

 各地に広がっているが、レッドブリッジのメモリーサービスは、そのチーム編成がなかなか充実している。週3日来る精神科医をはじめ、医師や主任看護師のサラさん、臨床心理士、5人の精神科看護師、作業療法士それに1人のアドミラルナースが加わっている。

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浅川澄一 [福祉ジャーナリスト(前・日本経済新聞社編集委員)]

あさかわ・すみかず/1948年2月東京都中野区生まれ。東京都立西高校から慶應義塾大学経済学部に。1971年日本経済新聞社に入社。小売り・流通業、ファッション、家電、サービス産業などを担当。87年に月刊誌『日経トレンディ』を創刊、初代編集長を5年間勤める。93年流通経済部長、95年マルチメディア局編成部長などを経て、98年から編集委員。高齢者ケア、少子化、NPO活度などを担当。2011年2月に定年退社。同年6月に公益社団法人長寿社会文化協会常務理事に就任。66歳。

 


医療・介護 大転換

2014年4月に診療報酬が改定され、ついで6月には「地域医療・介護総合確保推進法」が成立した。これによって、我が国の「医療」「介護」大転換に向けて、第一歩が踏み出された。少子高齢化が急速に進む中で、日本の社会保障はどう大きく変革するのか。なかなかその全貌が見えてこない、医療・介護大転換の内容を丁寧に解説していく。

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