人材を資源として見なさないブラック企業は
なぜパフォーマンスが低下するのか?

 このようにブラック企業の手口は、社員の裁量と自主性を悪用したり、制度を悪用したりした、マネジメント不在のパターンと、マネジメントをはき違えた脅しの経営のパターンに分類できる。

 そして、マネジメント不在の原因をつきつめれば、一部社員が健康被害をこうむっても、全体としての業績には影響ないという考え方や、社員の入れ替えをすればよいという考え方が蔓延しているためと思われる。

 そのように考える根底には、社員を、企業価値を実現するための重要な資源として見ていないことがある。貴重な資源のひとつとして位置付けていないから、マネジメントがおろそかになり、不当行為や不法行為に関する抵抗感が希薄になるという悪循環に陥るのではないか。

 過重労働による過労死や健康被害の問題は、もちろん被害をこうむった社員にとって、たいへん深刻な問題であることは言うまでもない。しかし、企業側は過重労働で違法に社員を搾取してメリットを得ていると考えるのは早計だ。実はあまり論じられていないが、過重労働がもたらす企業全体のパフォーマンス低下は、非常に深刻なのだ。

 過重労働によって、生産性が低下することに異論のある人はいまい。深夜労働の結果の成果物の精度がいかに低いか、実感したことのある人がほとんどであろう。

 それを知っていながら、過重労働を放置することは、企業の生産性向上の観点から見て重大な問題である。スポーツの世界では、コーチが選手のコンディションをコントロールして、役務提供のインタバールをマネジメントすることは当たり前だが、ビジネスの世界ではこれがなされていない。

 過重労働は生産性を低下させ、企業利益を損なうのだ。これを放置する経営者は、背任行為をしているのと同じだと言っても過言ではない。過重労働防止策は、マネジメント不在がもたらす、企業業績の低下を抑止する観点から、より議論されるべきだと思えてならない。

※社名や個人名は全て仮名です。本稿は、個人の見解であり、特定の企業や団体、政党の見解ではありません。