現在、ビジネスマンの3人に1人がうつ症状を経験しているといわれている。98年に173億円だった抗うつ薬の売り上げは、今や1200億円を超える。うつは心の風邪と呼ばれていたが、どうやらそんなに簡単には治らないようだ。今は季節の変わり目で、落ち込みやすくなる時期でもある。コーヒーや栄養ドリンクを飲んでも気分は上がらないだろう。日々心をすり減らしているビジネスマンに試していただきたいのが、ヨガである。(取材・構成:大畠利恵 ヨガトレーナー:金井俊希)
セロトニンは深い呼吸で活性化できる
皆さんには、次のような症状がありませんか。
・最近、何だかやる気がわかない
・好きなものに興味がなくなった
・キレやすくなる
・午前中はだるくて気合が入らない
・夜遅くに寝ても、朝早くに目が覚めるようになった
そんな症状が続いているようなら、要注意です。その状態が長く続くと、心のエネルギーはどんどん消耗され、うつ状態になってしまうかもしれません。
「セロトニン」という物質の名前を、皆さんも聞いたことはあるでしょう。セロトニンとは、人間の精神面に大きな影響を与える脳内の神経伝達物質の1つ。セロトニンがきちんと分泌されていると落ち着きや心地よさ、満足感を得られると言われています。
うつ病の原因の一つと言われているのが、セロトニン不足です。ストレスでセロトニンは不足するので、日々最前線で戦い続けているビジネスマンはうつ状態になりやすいのでしょう。
抗うつ剤は、セロトニンを増やすことで、やる気や意欲を高める効果があります。しかし、副作用が出たり、再発したり、なかなかうまくいかないことも多いようです。
薬に頼らなくても、まずは呼吸の仕方を変えてみるだけでも効果があるかもしれません。
ストレスフルなビジネスマンがセロトニン不足になると、「息がうまく吸えない」「深呼吸が出来ない」といった症状が出ます。セロトニンを意識的に増やすには、腹筋の収縮を意識的に行い、肺から空気を出すことを積極的に行う呼吸が有効です。一定のリズムで腹筋を収縮させたり、弛緩したりを繰り返す、いわゆる腹式呼吸ですね。
ストレスがたまると呼吸は浅くなります。脳は酸素の25%を消費し、酸欠に弱い器官です。呼吸が浅くなって酸素を脳に送れなくなると、脳の働きが悪くなり、セロトニンも不足してしまうのです。
したがって、深い呼吸で酸素を多く脳に送ると、セロトニンは増えると考えられます。呼吸を重視するヨガは、セロトニンを活性化させる可能性があるのです。しかも副作用はゼロ、強いていえば身体全体が健康になってしまうぐらいでしょう。
戸外でヨガをやればうつは吹き飛ぶ
世界の一流のビジネスマンやアスリート達の共通点の一つは、気持ちの切り替えや立ち直りが早いこと。彼らがヨガにハマるのは、それらを促す効果を実感しているからだと思います。
ヨガのメッカであるインドのベナレス・ヒンドゥー大学の研究で、3~6ヵ月間ヨガをするとうつ病が軽減されるとわかりました。
この研究はリラクゼーションのポーズや呼吸法、瞑想法によって行われました。ヨガを行ったグループと、抗うつ剤による治療を受けたグループでは、神経伝達物質の濃度が同じように改善されたのです。
両グループとも、ストレスを軽減させるセロトニンが著しく増加し、ストレスホルモンであるコルチゾールは減少しました。つまり、薬物治療と同じような効果がヨガで得られるということです。
この連載の最初に、当社のヨガスタジオは早朝に戸外でヨガをやっていると紹介しました。実はそれも気分を上げるために必要な要素の一つです。
日光浴はうつ状態にも効果があります。日光を浴びるとセロトニンやビタミンDが生成されるので、症状が改善するといわれています。とくに朝の光はいいので、早朝に戸外でヨガをすると気分が上向きになり気持ちが切り替わっていくでしょう。
落ち込んだ時には気分を上げるヨガ
今回は、ヨガの代表的なポーズ「英雄のポーズ」をご紹介します。
皆さんもテレビや雑誌でこのポーズを見たことはあるでしょう。ヒンドゥー教の三大神のひとり、シヴァ神の化身ヴィーラバトラを讃えるポーズです。ストレス解消に効果があるので、落ち込んだ気分が続くときや弱気になっているときなどに、試してみてください。
このポーズは第一のチャクラを活性化するといわれています。第一のチャクラは、身体の土台を支える機能があり、生命力ややる気などのエネルギーに関係しています。ここを活性化させることで大地からエネルギーを引き上げ、エネルギッシュになると考えられているのです。
このポーズは一見簡単そうに見えますが、上半身が倒れてお尻が突き出てしまう、カッコ悪い姿になりがちです。お尻が突き出ると腰を痛めてしまう恐れもあるので、腰をまっすぐさせるように意識してください。