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佐高 信の「一人一話」

その生い立ちが感性を研いだ 吉永みち子の深いふところ

佐高 信 [評論家]
【第33回】 2015年11月9日
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 人間に朝日派と夕陽派があるとしたら、自分は夕陽派だ、と吉永みち子は言う。夕陽をぼんやり眺めているのが好きなのである。朝日はまぶしくて、ぼんやりなんか眺めていられないとか。

 テレビでコメントしたり、卓抜なエッセイを書いている吉永は『気がつけば騎手の女房』(集英社文庫)で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した。

 彼女は野間惟道が社長をしていた『日刊ゲンダイ」で競馬記者をしていたことがあるが、あるとき、夜遅くまでみんな必死になって原稿を書いている中で、ひとり、ぷかっと煙草をふかしている男がいた。まだ20代で元気のよかった吉永は「ちょっとあんた邪魔よ。何にもなかったら帰ってよ、目障りだから」と声をかけた。

 吉永は顔を知らなかったのだが、それが社長の野間だった。

 しかし、そう言われて野間は怒りもせず「それもそうだな」と腰を上げた。

 すぐにデスクがとんできて、吉永は、その男が社長であることを知る。

 「しまった、これでクビだな」と思っていたら、逆に、それ以後かわいがられて、家に呼ばれたりした。

小生意気な女の子が競馬に目ざめ騎手の女房に

 『気がつけば騎手の女房』は東京外国語大学在学中に、突然、競馬に目ざめ、競馬記者になった吉永が、なんと、伝説的騎手の吉永正人の女房になってしまうまでの、ドラマを地で行くドキュメントだが、女性の就職物語であり、恋愛物語であり、結婚物語でもあるこのドラマは、「学生ホールで初めてダービーを見る」に始まり、「下宿屋の娘、通訳に憧れる」という回想に移る。父親が60歳の時に生まれた吉永は、9歳でその父を亡くし、母親と2人で下宿屋をやっていた。

 この小学生は「今思うと吹き出してしまうほど小生意気」で、下宿人がいろいろ無理を言うと、とびだしていって「ちょっとあんた、女子供だと思ってなめんじゃないよ。上等じゃないの。そんなに自分の都合ばかり並べるなら、明日から外食にしてもらおうじゃない。お母ちゃん、1人分減らしな」と、ベランメエ口調でまくしたてた。

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佐高 信 [評論家]

さたか・まこと 1945年山形県酒田市生まれ。評論家、『週刊金曜日』編集委員。高校教師、経済雑誌の編集者を経て評論家に。「社畜」という言葉で日本の企業社会の病理を露わにし、会社・経営者批評で一つの分野を築く。経済評論にとどまらず、憲法、教育など現代日本のについて辛口の評論活動を続ける。著書に『保守の知恵』(岸井成格さんとの共著、毎日新聞社)、『飲水思源 メディアの仕掛人、徳間康快』(金曜日)など。


佐高 信の「一人一話」

歴史は人によってつくられる。ときに説明しがたい人間模様、ふとした人の心の機微が歴史を変える。経済、政治、法律、教育、文化と幅広い分野にわたって、評論活動を続けてきた佐高 信氏が、その交遊録から、歴史を彩った人々の知られざる一面に光をあてる。

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