ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら
【第5回】 2015年12月8日
著者・コラム紹介バックナンバー
岩崎 夏海

【『もしドラ』第2弾『もしイノ』試読版 第3回】
「野球部って、ほんとにあったんですね!」

1
nextpage

私立浅川学園に進学した夢は、ある日一冊の本を拾います。その本の名は『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』。なんでも、新しく赴任してきた北条文乃先生が、学生時代に「岩崎夏海」というペンネームで書いたものだといいます。
それを読んだ夢は、友人の真実からこう告げられます。
「私も、野球部のマネージャーになろうと思って」
それで夢は、びっくり仰天。なぜなら、浅川学園には野球部がなかったからです。

「野球部って、ほんとにあったんですね!」

 すると真実は、不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「……それがね、あるのよ」
「えっ!」
「うちの高校には『幻の野球部』が存在するの」

 浅川学園は、男女共学の私立高校である。生徒数は全校で八〇〇人弱。創設は五〇年ほど前の昭和半ば、高度経済成長期の真っ只中で、多摩地区がニュータウンとして整備され、多くの住人が移り住んできた時代だった。
 そこで、最初は学校の施策としてスポーツが振興された。それを宣伝材料に、生徒の獲得を図ろうとしたのである。特に、人気の野球部には力が入れられた。他校から名のある指導者を招聘し、特待生制度も早くから導入した。
 そうして創立五年目で、念願の甲子園初出場を果たす。その後も春に一度、夏に一度、計三度の甲子園出場を果たした。
 ところがその後、勝てなくなる。ちょうどこの頃、東京都の高校は数が増えるのに従って野球のレベルも上がっていった。次から次へと強豪校が生まれ、ベストエイトに勝ち残るのも困難になった。東京の代表校が甲子園で優勝するようになったのは、この頃のことである。
 すると野球部は、いつしか浅川学園にとってお荷物のような存在となってしまった。他の部に比べて優遇されているにもかかわらず、それに見合うだけの結果を残せていなかった。それで自然、部や監督への風当たりも強くなった。
 そのストレスが溜まったのか、やがて監督が不祥事を起こす。指導という名のもと、部員に暴力を振るい、訴えられたのだ。
 そのときは、野球部そのものも乱れていて、部員たちも立て続けに問題を起こした。校則違反はもちろん、犯罪で捕まった生徒もいた。
 そのため、監督が起訴された後、高野連からは一年間の対外試合禁止を申し渡された。
 これをきっかけに、学校は野球部の休部を決める。経費がかさむ割には甲子園に出られず、逆に問題ばかり起こすお荷物部を存続させる積極的な理由が見つからなかったのだ。廃部としなかったのは、あまりことを荒立てたくなかったからに過ぎない。
 そうして野球部は、なし崩し的に消滅した。一九九〇年代初頭のことである。以来、実に四半世紀にわたって休部が続いていた。
 だから、夢にとっては生まれる前から休部していたことになる。そのため、野球部がないと思うのも無理はなかった。
 そんな夢に対し、真実が言った。
「夢は知らない? ほら、あのモノレールに乗って多摩センターに行く途中、山の斜面のところにでっかく『浅川学園』って古びた看板が出ているの」
「あ、知ってる。明星大学の手前のところでしょ」
「実は、あそこが野球部のグラウンドなんだ」
「え! そうなの?」
「うん。あそこも学校の所有地で、部員は、前はあそこまで徒歩で通ってたんだって」
「ずいぶん遠いのね。しかも山の上だし」
「そう。だから『地獄の山登り』っていわれてたみたい。それがイヤでサボる部員も多かったそうよ」
「へえ」
「でも、今はモノレールができたからアクセスは楽になったんだ。ただ、逆に野球部がなくなっちゃったんで、やっぱり誰も行ってないけど」
「真実はなんでそんなこと知ってるの?」
「それはね、ある人に教えてもらったからよ」
「ある人──って誰?」
「それは……」と言ったとき、真実は何かを思いついた顔になった。それから、夢にこう言った。「あ、じゃあ今からその人に会いに行こうか!」
 そうして、さっさと教室を飛び出していった。
 それで夢も、慌ててその後を追いかけた。

1
nextpage
スペシャル・インフォメーションPR
ダイヤモンド・オンライン 関連記事
自分の時間を取り戻そう

自分の時間を取り戻そう

ちきりん 著

定価(税込):本体1,500円+税   発行年月:2016年11月

<内容紹介>
生産性は、論理的思考と同じように、単なるスキルに止まらず価値観や判断軸ともなる重要なもの。しかし日本のホワイトカラー業務では無視され続け、それが意味のない長時間労働と日本経済低迷の一因となっています。そうした状況を打開するため、超人気ブロガーが生産性の重要性と上げ方を多数の事例とともに解説します。

本を購入する
ダイヤモンド社の電子書籍
(POSデータ調べ、11/20~11/26)


注目のトピックスPR


岩崎夏海(いわさき・なつみ)

1968年生まれ。東京都日野市出身。東京藝術大学建築科卒。 大学卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』等、テレビ番組の制作に参加。その後、アイドルグループAKB48のプロデュースなどにも携わる。2009年12月、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(ダイヤモンド社)を著し、ベストセラーに。他の著書に『エースの系譜』(講談社)、『小説の読み方の教科書』(潮出版社)、『チャボとウサギの事件』(文藝春秋)、『宇宙って面白いの?』(講談社)、『まずいラーメン屋はどこへ消えた?―「椅子取りゲーム社会」で生き残る方法』(小学館)、『部屋を活かせば人生が変わる』(部屋を考える会著/夜間飛行)、『『もしドラ』はなぜ売れたのか?』(東洋経済新報社)、『競争考』(心交社)などがある。 また、ドワンゴ・夜間飛行にて有料メルマガ『ハックルベリーに会いに行く』を配信中。Youtubeチャンネル『ハックルテレビ』を運営。2015年から岩崎書店の社外取締役となり、児童書のプロデュースにも携わる。他に、「岩崎夏海クリエイター塾」の講師を2014年から務めている。

 


もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら

275万部を突破した『もしドラ』から6年。再びドラッカーを題材にした新刊『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら』を書き下ろした著者・岩崎夏海氏が、各界の著名人を迎え、今作のテーマについて語り合います。

「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら」

⇒バックナンバー一覧