優秀な経営者は、社外取締役をどのように活用しているのか?吉野家ホールディングスの安部修仁会長に、自身の経験から「真に機能する社外取締役制度」のために必要な条件について、語ってもらった。(構成/フリージャーナリスト・室谷明津子)

良品計画の社外取締役で
多くのことを学んだ

 今後しばらく、日本の上場企業の多くが社外取締役について頭を悩ませることになるでしょう。というのも、今年6月に東京証券取引所が発表した「コーポレートガバナンス・コード」(企業統治原則)が、社外取締役を2人以上専任することを強烈に勧めているからです。社外取締役を設置する企業の数が一気に増え、候補者の確保も簡単では無いかもしれません。

 一方では、相次ぐ有名企業の不祥事によって、「社外取締役が機能していない」という論調が見られるようになりました。これまで、有名企業の社外取締役というのは一種の「名誉職」であり、オフィシャルな肩書きを増やす目的で引き受けていた人も少なくなかったでしょうが、そのような人たちが「面倒なことに巻き込まれたくない」と言って社外取締役の就任を断るケースも増えるでしょう。引き受けるにせよ断るにせよ、私にはうなずき難い動機ですし、メディアの取り上げ方もあまりに短絡的だと思いますが…。今回はあえて「社外取締役の役割」について考えてみましょう。

 私は2002年に良品計画で初めて社外取締役を務めました。当時社長だった松井忠三さん(現・名誉顧問)が経営改革を断行するにあたって、創業社長で会長であった木内政雄さんから、しまむらの藤原秀次郎さんと共に呼ばれました。

経営者の意識次第で<br />毒にも薬にもなる社外取締役制度社外取締役の役割は「株主目線」「理念の番人」「取締役会の活性化」――。来年から社外取締役の設置会社が増えるのは確実だが、制度導入だけでは意味がない。導入側の経営者の見識こそが問われる

 それまで私は社外取締役については、どちらかというと否定的な見方をしていました。日ごろから経営に携わっている人間にとって、突然外から入ってきて初歩的な質問を連発されるというのは、単なる時間のむだではないかと思っていたのです。しかし、旧セゾングループの中でも極めて優良な企業であった良品計画の経営に参画し、学ぶことに大きな魅力を感じて引き受けました。

 とはいっても、社外取締役の役割というのがいまいち理解できない。そこで藤原さんに「われわれは何をすべきでしょう」と教えを乞うと、「株主の立場に立って、経営者の判断の是非を問うのです」と、明快な答えが返ってきました。藤原さんはしまむらの低コストオペレーション・システムをご自身で作り上げ、日本を代表する衣料チェーンを築いた名経営者です。取締役会では言葉少なに核心をつくということがよくあり、「さすが」と思わされました。

 例えば、むだな資料が多いという話題になったときには、「少しずつ改善するのではなく、ペーパーレスにして一気にゼロにする発想から入りなさい」とずばっと言います。勉強会で私が吉野家の「価値の再設計」という戦略で成功した事例をレクチャーしたときも、「取り入れるべき手法がたくさんありますが、吉野家が単品経営だからできたということも忘れてはいけません」と指摘されました。