TBS日曜劇場で放送中のドラマ「下町ロケット」は、池井戸潤が4年前に直木賞を受賞した同名タイトルの作品を原作としている。東京の下町、大田区にある佃製作所が得意のバルブ技術をもって巨大メーカーとともに国産初の商業用ロケット開発に挑む物語。日本の技術力を支える中小メーカーの経営の難しさ、技術者の矜持や悲喜こもごもが描かれながら、爽快な大団円を迎える展開は好評を得てきた。続編を期待する声も多く、ドラマ化と連動して『下町ロケット2 ガウディ計画』が発売となった。
今回の開発テーマは人工弁。
心臓弁の病変に苦しむ患者は国内に200万人もいるのだが、現在、医療現場で承認されている人工弁はほとんど外国製でサイズが大きく、日本人の子どもには適合しにくい。そこで、子どもたちにあった小さな人工弁を作りたいと、福井のある医師と編み物会社の社長が動きだし、この「ガウディ計画」と名づけられたプロジェクトに協力してほしいと佃に懇願する。医療機器の開発には巨額の資金と長い開発期間を要する上に、国の厳しい審査も受けなければならない。中小メーカーが請け負っても前途多難なのは明白なのだが、佃は一度断った末に依頼を受けてしまう。
かくして物語は、“白い巨塔”と揶揄される医学界とその周辺の暗部を描きつつ進む。そこには巨大企業と下請けの関係によく似た力学があり、地位や立場を根拠に相手を見下す人間たちが次々と現れ、佃の行く手をこれでもかと塞いでいく。それでも前進を止めない佃の技術者たちにあるのは、子どもの命を救うという堂々たる動機と愚直なまでの開発姿勢だった。
〈今時誠実さとか、ひたむきさなんていったら古い人間って笑われるかも知れないけど、結局のところ、最後の拠り所はそこしかねえんだよ〉
佃社長の啖呵じみたこのセリフの快さは、そのまま読後感へとつながっている。
※週刊朝日 2015年12月11日号