大統領の指針ともなる最高情報機関・米国国家会議(NIC)。CIA、国防総省、国土安全保障省――米国16の情報機関のデータを統括するNICトップ分析官が辞任後、初めて著した全米話題作『シフト 2035年、米国最高情報機関が予測する驚愕の未来』が11月20日に発売された。日本でも発売早々に増刷が決定、反響を呼んでいる。本連載では、NIC在任中には明かせなかった政治・経済・軍事・テクノロジーなど多岐に渡る分析のなかから、そのエッセンスを紹介する。

経済成長やインターネットの浸透によって、新興国の「中間層」は無視できない一大勢力となる可能性が高い。とりわけ、宗教・民族・国家アイデンティティの高まりは世界の不安定化要因となるだろう。第13回では、豊かになりインターネットで力を得た、新たな「中間層」がもたらずインパクトを分析する。

インターネットは「愛国主義」を加熱させるか

インターネットは愛国主義と、人種的、宗教的、民族的不満も拡散する力があるのか。この点は、少し注目する必要があるだろう。

「インターネット」こそがナショナリズムと宗教対立をもたらしたのか

中国で最もインターネットの利用者が多い30歳以下の若者は、「きわめて愛国主義的な見方を持ちつつある」と、ランド研究所は指摘している。「……中国のインターネットユーザーが目にする情報のうち、外国語の情報は20%強しかない

こうした愛国主義と宗教的アイデンティティの高まりが、個人のエンパワメントがイデオロギー面にもたらす短・中期的な影響だろう。グローバル化は西側の物質的豊かさを求める社会に、科学的合理性や個人主義、世俗的な政府、法の優位性といった西側の考え方をもたらしてきた。

しかし新興国の市民の多くは、物質的豊かさを得るために、文化的アイデンティティや政治的伝統を捨てたくはないと思っている。こうしたイデオロギー的論争は、宗教を中心に展開されるだろう。

愛国主義も激しく燃え上がり、人々を動かす原動力になっている。特にユーラシア大陸や東アジアの領土問題を抱える国や、急速に豊かになっている国でその傾向がある。

2012年のピューの調査によると、「ロシア人の約半分が、ロシアはロシア人だけのものであるべきだと考えていて、反対意見は40%だった」。2009年の調査でも、54%が「ロシアはロシア人のものであるべきだ」と答えるなど、ロシア人は愛国主義的な傾向がある。しかしソ連が断末魔の苦しみにあった1991年、「ロシアはロシア人だけのものだ」という考えに反対する人は69%もいて、賛成は26%しかなかった。