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ニッポン 食の遺餐探訪

「あんこ」が苦手な若者にも美味と言わせる味の秘密

樋口直哉 [小説家・料理人]
【第38回】 2016年1月6日
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「あんこ屋の野中の手作りぜんざい」。とてもシンプルだが、甘味の奥にしっかりと小豆の味がする

 おいしい食べ物には作り手の存在がある。『あんこ屋の野中の手作りぜんざい』という商品を食べて、改めてそんなことを思った。

 素朴なデザインのパッケージの蓋を開けると、ごろごろとした豆の姿が見える。原材料は国産小豆と北海道産甜菜を原料としたグラニュー糖だけ。とてもシンプルだ。

 「今の時期ですと蒸かしたさつまいもやかぼちゃと一緒に食べてください」

 株式会社野中の野中雄也さんにお会いしたときにそんな風にすすめられたので、その通りに味わってみると、甘みの奥にしっかりと小豆の味がした。しみじみとした美味しさである。その地味だが誠実な味はどことなく野中さんの印象と似ていた。

 あんこ屋=製餡メーカーは業界の縁の下の力持ち的存在なので、普段の生活で接する機会は少ない。元々は菓子製造業者は自家製であんこをつくっていたが、明治20年頃にあんこ製造の外部化が進んだ。需要と商品の増加に対応するためである。そこではじめて「生あん」(小豆などを煮て潰した砂糖が入っていない餡)が製造され、全国各地であんこ屋が生まれた。

 戦争を経て昭和26年3月、小豆類の統制が解除される。製餡業が再開されると戦後のパン食の普及などにともなって、生餡に砂糖を加えて練り上げた「こしあん」(煉あん)や、小豆を煮て、砂糖などを加え直接炊き上げる「粒あん」(小倉あん)なども製餡所が受け持つようになる。例えばあなたが旅行のおみやげに買った地方銘菓に使われているあんこも、どこかの製餡所でつくられたものの可能性が高い。

山梨の木造工場にて
井戸水で作られる極上の「あんこ」

株式会社野中の野中雄也さん

 山梨県、甲府市にある株式会社野中の工場を訪れた。8年前に建てたという木造の清潔感のある工場だ。製餡所の仕事は湯気が相当あがるので、天井はとても高い。先に述べた野中雄也氏にご対応いただいた。

 「この工場ができたのが8年前です。元々の場所が道路の拡幅工事に引っかかって削られることなり、こちらに先代がキープしていた土地があったので移転しました」

──きれいですね。

 「仕事の半分は掃除です。食品工場って、大抵匂いがあるじゃないですか。そういうのは個人的にすごく嫌だな、と思って」

──木造の工場は珍しいんじゃないですか?

 「木造は気持ちいいですよ。ただ、あんこの製造には水をたくさん使うので、換気の問題をクリアするまでが大変でした。あんこ作りに水はやはり大事なんです。うちではすべて井戸水を使っています」

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樋口直哉 [小説家・料理人]

1981年生まれ。服部栄養専門学校卒。料理人として活動する傍ら、2005年、『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、小説家としてデビュー。ほかの作品に『月とアルマジロ』(講談社)、『大人ドロップ』(小学館)、『星空の下のひなた。』(光文社)、『ヒマワリのキス』(徳間書店)、『アクアノートとクラゲの涙』(メディアファクトリー)がある。

 


ニッポン 食の遺餐探訪

和食を世界遺産に、という動きが農林水産省を中心にはじまっている。日本料理はここ十年余りの世界的な流行になり、外国の料理人の多くも関心を持っていて、誰もがそれを理解しようとしている。しかし、当の日本人の多くは日本料理を理解できていないのではないか。そこでこの連載では、日本の食を支えている道具や食材をつくっている生産者、職人を訪れて、私たち日本人が知らない日本の“食の遺餐”を紹介していく。 

「ニッポン 食の遺餐探訪」

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