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長内 厚のエレキの深層

運命の決算発表を前に、
シャープ「起死回生シナリオ」を検証する(下)

長内 厚 [早稲田大学商学学術院大学院経営管理研究科教授/早稲田大学台湾研究所研究員・同IT戦略研究所研究員]
【第1回】 2016年1月27日
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>>(上)より続く

 先にも述べたように、鴻海はアップル製品の製造請負が事業の中心であるが、iPhoneシェアの高い日本市場を除けば、世界市場ではiPhoneのシェアは決して高くなく、一部の報道では、iPhoneの減産も始まっているという。さらに、台湾企業はこれまで生産拠点として中国大陸への投資を行い、「設計は台湾で、生産は中国で」という形で付加価値を台湾に残した事業のやり方をしてきたが、テレビのハイセンス、白物のハイアール、携帯電話の小米のように、中国企業そのものの製品開発力が向上するにつれ、相対的に彼らのプレゼンスは低下してきている。

 こうした中で、相対的に見て、中国よりもいまだ商品企画力が高い日本企業の組織能力と、台湾の優れた製造の効率性を組み合わせて、中国企業に対応しようというのが、鴻海をはじめ多くの台湾企業にとって魅力的なシナリオである。またそれは、生産の効率化や「商売をする組織」としての企業経営が下手な日本企業にとっても、意味のあることである。

大切なのは日の丸オーナーではなく
日本の雇用を守ること

 一部の報道で、シャープや同じく経営再建が求められる東芝の家電事業を、日立を中心に再編し、日立、東芝、シャープを統合する形で1つの家電メーカーをつくろうという動きがあることが報じられている。報道によれば、3社の売上を合わせればパナソニックの家電に匹敵するともいう。しかし、実際にはそんな単純な足し算にはならないであろう。3社それぞれにテレビや冷蔵庫、洗濯機、エアコンといった同じカテゴリーの製品があり、開発組織も販売組織も重複している。すなわち、3社統合を目指すということはさらなるリストラを行うことに直結している。

 筆者も、日本の家電メーカーはブランドが多すぎ、国内での過当競争が国際化を妨げていると考えており、長期的には統合の必要はあるかもしれないと思う。あるいは10年、15年前に統合をしていたら、各社がまだ余力があったので、重複する部門の人員を新規事業に割り当てるなど、リストラを伴わない統合プランが考えられたかもしれないとも思う。

 しかし、追い詰められた3社弱者連合(日立を弱者というのは申し訳ないかもしれないが、これら3社ともグローバルに見れば家電メーカーとしてほとんど知られていない、ということを日本人は認識すべきであろう)による合併は、リストラによる縮小均衡以外に再建策はないだろう。

 そうした場合、個々人のエンジニアが散り散りに世界中の様々な企業に転職することになり、その方がよほど深刻な技術流出を招く恐れがある。退職したエンジニアのその後は、企業も国もコントロールできないからだ。しかし、たとえばシャープという会社のオーナーが外国資本になろうとも、社員全員を台湾や中国に移転させることはできない。

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長内 厚 [早稲田大学商学学術院大学院経営管理研究科教授/早稲田大学台湾研究所研究員・同IT戦略研究所研究員]

京都大学大学院修了・博士(経済学)。1997年ソニー株式会社入社後、映像関連機器部門で商品企画、技術企画、事業本部長付商品戦略担当、ソニーユニバーシティ研究生などを歴任。その後、神戸大学経済経営研究所准教授を経て2011年より早稲田大学ビジネススクール准教授。2016年より現職。早稲田大学IT戦略研究所研究員・早稲田大学台湾研究所研究員を兼務。組織学会評議員(広報委員会担当)、ハウス食品グループ本社株式会社中央研究所顧問、(財)交流協会貿易経済部日台ビジネスアライアンス委員。(長内研究室ホームページ:www.f.waseda.jp/osanaia/

 


長内 厚のエレキの深層

グローバル競争や異業種参入が激化するなか、従来の日本型モノづくりに限界が見え始めたエレキ産業は、今まさに岐路に立たされている。同じエレキ企業であっても、ビジネスモデルの違いによって、経営面で大きな明暗が分かれるケースも見られる。日本のエレキ産業は新たな時代を生き延び、再び世界の頂点を目指すことができるのか。電機業界分析の第一人者である著者が、毎回旬のテーマを解説しながら、独自の視点から「エレキの深層」に迫る。

「長内 厚のエレキの深層」

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