自分が苦境にあるときは、「同じことを経験済みの他者」に相談して共感を得たくなるものだ。しかしその相手は、実は最も共感してくれない――こんな意外な事実が研究で示された。


 あなたは、初めて子を持つ親になったばかりだとしよう。とにかく大変で、消耗し、仕事のパフォーマンスは落ちていく。そこで、パートタイムで自宅勤務としてもらい、家族の世話をする時間を増やしたい、と切実に望んでいる。

 上司の1人は、かつて出世の階段を上っているときに子どもがいた。もう一方の上司には、子どもがいなかった。さて、あなたの要望を聞き入れてくれる可能性が高いのはどちらの上司だろうか。

 ほとんどの人は、子を持つ上司に相談すべきだと考えるだろう。同じ経験をしているのだから共感を得やすい、と直感的に思うからだ。何といっても、彼女も「その道を通ってきた」わけだから、あなたの状況を理解しやすい立場にあるはずだ。

 ところが、筆者らの最近の研究では、この直感がしばしば間違っていることが明らかになった。苦境(離婚、昇進見送りなど)に陥っている他者に対し、過去に同じ苦境を乗り越えた経験がある人は、その経験がない人よりも、共感を示しにくい――こんな結果が、最近行った一連の実験でわかったのだ(英語論文)。

 最初の実験では、「寒中飛び込み」に参加した人々にアンケート調査を行った。これは3月の凍てつくミシガン湖に飛び込むイベントである。参加者全員に、パットという名の男性の物語を読んでもらった。パットは、見事飛び込んでみせるぞと意気込んでいたが、土壇場になって怖じ気づき逃げてしまう。

 ここで重要なポイントがある。1つのグループには飛び込む前にパットの物語を読んでもらい、別のグループには飛び込んでから1週間後に読んでもらった。その結果、寒中飛び込みを成功させた人々は、まだ飛び込んでいない人々と比べて、パットに対して共感が薄く、軽蔑する気持ちも強いことがわかった。

 もう1つの実験では、失業に苦しんでいる人への共感を調べてみた。200名を超える被験者に、必死の努力にもかかわらず就職できない男性の物語を読んでもらった。彼は生活に窮し、麻薬の売人として稼ぐまでに身を落としてしまう。

 実験の結果はこうなった。過去に失業状態を脱した経験を持つ人々は、現在失業している人や、不本意な失業を経験したことがない人と比べて、物語の男性に対して共感が薄く、厳しい見方をした。

 第3の実験では、いじめを受けているティーンエイジャーへの共感について調べた。一部の被験者には、彼がいじめにうまく対処していると伝えた。残りの被験者には、彼がうまく対処できずに暴力を爆発させ、無関係の傍観者を含む数人に怪我を負わせてしまったと伝えた。

 過去に自分もいじめを受けた経験を持つと報告した被験者は、そうでない被験者と比べて、いじめにうまく対処しているティーンエイジャーに対する共感が強かった。しかし、以前の実験と同様、過去にいじめられた経験を持つ被験者は、いじめにうまく対処できなかったティーンエイジャーに対する共感が「最も」低かったのである。

 以上の結果を総合するとこうなる。過去に苦境を乗り越えた経験を持つ人は、似たような苦境にあり克服できないでいる人に対して、特に厳しい見方をする傾向が強いようだ。