日本政府観光局が6月25日に発表したデータによれば、5月に日本を訪れた外国人は72万2千人(推定値)で、前年同月比で50%増と急増しているそうだ。世界的金融危機の最中の昨年5月と比べてもあまり意味はないと思われるかもしれないが、これは5月としては08年に次ぐ多さとなるという。

 内訳は、中国本土が86.4%増の11万2800人、韓国が71.0%増の20万1600人、台湾が62.5%増の11万4200人である。特に中国からは、5月としては過去最高の伸びを記録した。

 この勢いを見た観光局も、訪日外国人客数が2009年と比べて50%増の1千万人という目標を今年達成することも夢ではないと鼻息が荒くなった。

 同じく中国人観光客の増加に大きく期待する国がある。G20開催国であるカナダだ。カナダを訪れた胡錦濤国家主席が訪問期間中に、出国目的地国家・地域指定(ADS指定国・地域)をカナダに与えた。

 ADSとは、APPROVED DESTINATION STATUSを略したものだ。「観光目的指定国」または「観光目的指定先」という意味である。つまり、中国人観光客の受け入れについて中国政府と協定を結んだ国または地域のことをいう。

 中国語の新語といえば、本来ならば中国人が最も頻繁に使う言葉のはずだが、この言葉に限っては、おそらく外国人のほうがより熱く語っているだろうと思う。

 1994年から03年までに海外(香港を含む)を旅行した中国人はのべ1億人で、年間平均成長率は14%だったが、02年は前年度比37%増の1660万人となり、日本の海外旅行者数と肩を並べた。03年は2022万人で初めて2000万人台を突破した。経験則でいえば、中国では2000万という数字が人気爆発の臨界点だ。ある商品の販売数が2000万を超えるとそこから爆発的に増えていく。家電や携帯電話などの売れ行きを見てもそうだった。案の定、今や中国人海外旅行者数が年間5000万人規模となり、今でも2ケタの成長率を維持している。

 世界的な金融危機の中で経済的に苦しい各国は、中国人観光客の急増にビジネスチャンスを見出し、中国人観光客の誘致に熾烈な争奪戦を繰り広げている。しかし、急増する中国人観光客を囲いこむには、中国人観光客を受け入れる協定を中国政府と交わし、ADS資格を手に入れなければならない。