インバウンドは回復傾向にある――。この認識が通用するのは、日本でも一部の地域かもしれない。確かに国全体としては訪日外国人旅行者数はコロナ前の数字に近づいている。しかし、都道府県ごとの統計からは「地方過疎・都市過密」の実態が見えてきた。「インバウンド減少率」をランキング形式で紹介するとともに、地域格差が生まれた要因を分析した。ダイヤモンド・オンラインで2024年9月30日に配信された記事を再配信する。(観光学者 山口一弥)
都市「オーバーツーリズムだ!」
地方「インバウンドどこ?」
これまでインバウンド観光客が最も多く訪れた年をご存知だろうか。
答えは3188万人を記録した2019年だ。新型コロナウイルス感染拡大で壊滅したインバウンド需要は、2023年には2507万人まで急回復したものの、2019年比で78%にすぎない。
この事実を目にして、「えー、まだそんなもの?」と思った人と「もうそんなに復活したの?」と思った人に分かれたはずだ。
なぜなら、皆さんが暮らす地域によってインバウンド需要の回復に対する印象が異なるからだ。
国土交通省で発表しているインバウンドの延べ宿泊者数を都道府県別に2019年と2023年を比べたところ、地方と都市で傾向がはっきりわかれた。ワーストでランク上位、つまりコロナ禍を経てインバウンド需要を大きく減らした地方を尻目に、関東地方や都市部ではインバウンドが大きく増える結果となった。
前述した様に現状インバウンド観光客数の最高を記録した2019年は、本来なら翌年に東京オリンピック開催を控えていた。2020年に訪日インバウンド旅客数4000万人という、達成困難と思われていた国の目標が現実味を帯びた年でもあった。
実際にインバウンド観光は、第2次安倍内閣の経済政策の柱のひとつだった。円安やビザの発行緩和、LCCによる地方空港乗り入れなどを背景に、2015年(1974万人)は惜しくも2000万人に届かなかったものの、翌2016年は2404万人、2018年には3119万人と短期間で驚異的な増加を見せた。中国人旅行者による「爆買い」という言葉も度々耳にした。
しかし、そこから一転、2020年2月に大型クルーズ客船ダイヤモンド・プリンセス号における新型コロナの集団発生を目の当たりにし、日本はおろか世界中が新型コロナ禍に突入してしまった。インバウンド観光客はぷっつりと途絶えてしまい、ようやく昨年から本格的に回復をし始めたという状況だ。
国は毎月、日本人および外国人の都道府県ごとの延べ宿泊者数を発表している。そこから見えてきたのは、ずばり「地域差」だ。2023年のインバウンドを牽引したのは韓国(695.8万人)と台湾(420.2万人)である。この両地域だけでインバウンドの半数近く、実に44.6%にも及んだ。
今回の比較でワーストに上位にランクした県はこの恩恵に与れなかった地域ということになる。