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脳が認める勉強法
【第6回】 2016年2月12日
著者・コラム紹介バックナンバー
ベネディクト・キャリー,花塚 恵

邪魔をされると目標達成しやすくなる
「ツァイガルニク効果」と目標の親密な関係

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今では恋愛やマーケティングの世界でも使われている「ツァイガルニク効果」とは、どんな現象で、どうやって実証されたのか。記憶力の強化や創造性の飛躍にうまく活用するには?米国ベストセラー『脳が認める勉強法』より、内容の一部を特別公開する。

留学生ツァイガルニクが選んだ
研究テーマ

 ベルリン大学の心理学者、クルト・レヴィンはその日、リトアニア出身の留学生、ブルーマ・ツァイガルニクと一緒に次に研究するテーマを探していた。

 カフェで話していると、ふたりのうちのどちらかが(どちらかは定かではない)、ウェイターが注文を書きとめないことに気がついた。すべて頭のなかにとどめているのだ。会計がすむまでは、追加注文があってもすべて頭のなかにつけ加えている。

 ところが、会計がすむと、勘定書に含まれていた商品は何だったかと尋ねても、すっかり忘れてしまっていた。何一つ思いだせないのだ。会計が終わったとたん、ウェイターの頭のなかのチェックマークがはずされ、会計までのやりとりのすべてが記憶から消されてしまったかのようだった。

 レヴィンとツァイガルニクには、それが短期記憶と呼ばれる領域で扱われる記憶でないことはわかっていた。短期記憶とは、その場で初めて見た電話番号などを記憶する領域のことである(ここで保持される時間は30秒前後と言われている)。ウェイターは、少なくとも30分は注文を覚えていた。

 彼の頭のなかでは何が起きていたのか?

 レヴィンとツァイガルニクは、一つの仮説を考案した。「完了していない仕事や目標は、完了したものよりも長く記憶に残るのではないか?」。少なくとも、これでツァイガルニクに研究するテーマができた。そして、彼女は次のように問いの内容を狭めた。「途中で邪魔の入る活動とそうでない活動とでは、記憶にどのような違いが生まれるのか?」

人は、何かを割り当てられると
完了させたくなる

 ツァイガルニクは、実験に協力してくれる学生、教師、子どもを164人集め、各自に割り当てられた作業を「できるだけ早く正確に完了させるように」と指示を出した。作業は一度に一つずつ与え、その内容は、ダンボールの箱を組み立てる、粘土で犬を作る、言葉のパズルを解くといったものだ。

 ほとんどの被験者は、どの作業も3~5分で完了させた。ただし、それが許された場合の話だ。というのは、ツァイガルニクが定期的に彼らの作業の邪魔をしたのだ。作業をしている彼らの手を止めさせて、別の仕事を与えた。邪魔を入れる間隔は無作為で、被験者には何の説明もしなかった。

 実験終了後(18~22の作業を各自に割り当て、途中で邪魔が入って最後まで完了させられなかった者もいれば、一切邪魔されずに完了させた者もいた)、ツァイガルニクは被験者に向かって、割り当てられた作業を思いだせるだけすべて紙に書きだすようにと告げた。そうしてできたリストは、次のことを教えてくれた。

 平均すると、ちゃんと完了させた作業に比べ、邪魔が入って完了させられなかった作業のほうを、90パーセント多く覚えていた。それだけではない。リストの上位は、邪魔が入って完了させられなかった作業が占めていた。完了した作業で思いだしたものがあっても、それらはリストの下のほうだった。

 「かかわった時間だけを考えれば、完了した作業のほうに分があるはずだ。作業を完了させた被験者は、当然、完了させられなかった人よりも長くその作業に携わったのだから」とツァイガルニクは書いている。

 邪魔が入るという「刺激」により、その経験が記憶に残りやすくなる、そんなことが現実に起きたのだろうか?

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ベネディクト・キャリー(Benedict Carey)

『ニューヨーク・タイムズ』紙サイエンスレポーター。 コロラド大学卒業後、ノースウェスタン大学大学院でジャーナリズムの修士号を取得。フリージャーナリストを経て、『ロサンゼルス・タイムズ』紙の記者として脳科学、医療、健康の記事を執筆。2002年にはミズーリ大学ライフスタイル・ジャーナリズム賞を受賞した。2004年より『ニューヨーク・タイムズ』紙の記者となり、神経科学、精神医学、神経学、日常の心理学を主なテーマとして活動している。読者からのメールがもっとも多い人気記者のひとりで、25年にわたって科学と健康の記事を書き続けている。

 

花塚 恵(はなつか・めぐみ)

翻訳家。福井県福井市生まれ。英国サリー大学卒業。英語講師、企業内翻訳者を経て現職。主な訳書に『決める』(ダイヤモンド社)、『世界トップ3の経営思想家によるはじめる戦略』(大和書房)、『米海軍で屈指の潜水艦艦長による「最強組織」の作り方』(東洋経済新報社)、『スターバックスはなぜ値下げもテレビCMもしないのに強いブランドでいられるのか?』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。


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