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脳が認める勉強法
【第3回】 2016年1月6日
著者・コラム紹介バックナンバー
ベネディクト・キャリー,花塚 恵

最善のテスト対策は、自分で自分をテストすること

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テストに苦手意識を抱いている人は多い。ところが、最善のテスト対策は自分で自分をテストすることだという。自己テストは、覚えている力を測るだけでなく、思いだす力全般をも高める。そして何より、見て覚える勉強時間を増やすよりも、はるかに有効な学習テクニックとなる。
全米ベストセラー『脳が認める勉強法』より、内容の一部を特別公開する。

テストを失敗させる
「流暢性の幻想」とは?

 問題用紙を開いたときに、試験勉強で解いた問題や、黄色のマーカーで線を引いたことが目に入ってきたという経験は誰にでもあるだろう。前日にたやすく空で答えられた名称、理念、公式が並んでいる。引っ掛け問題も見たことのない問題もない。それなのに失敗する。いったいなぜなのか? どうしてそんなことになるのか?

 私自身、最低最悪の失敗をしでかしたことがある。高校生のとき、大学レベルの授業を行う上級クラスに入るには、三角法の学年末試験で高得点をとる必要があった。だから、私は何週間も前から準備をした。

 試験当日、上機嫌だったことはいまでも覚えている。問題冊子が配られてざっと目を通すと、私はほっとした。勉強しておいた概念がいくつか出題されていたほか、10回以上解いた問題とよく似た問題もあったからだ。これはいけるぞ。

 ところが、私の点数は50点台前半で、正真正銘の平均点だった。誰のせいか? もちろん私自身だ。題材はわかっていても、内容が頭に入っていなかった。私は「試験を受けるのが下手な子ども」だったのだ。私は自分を責めた。しかし、自分を責めた理由はすべて間違っていた。

 点数がとれなかったのは、勉強が足りなかったせいでも、試験に適した「遺伝子」が欠けていたせいでもない。自分の理解の深さに対する判断が間違っていた。私は心理学者が「流暢性(りゅうちょうせい)」と呼ぶものに引っかかったのだ。

 流暢性とは、情報を適切に素早く処理し出力する能力のことである。事実や公式や要旨がその場ですぐに思いだせると、翌日や翌々日になっても思いだせると信じてしまうのだ。この流暢性が招く幻想は非常に強力だ。主題や課題の内容をつかんだと思えば、それ以上勉強する必要はないと思い込む。人は忘れるという事実を忘れてしまうのだ。

 流暢性による幻想を生みだす「学習テクニック」は数知れない。マーカーで線を引く、試験対策を立てる。教師が配る章の概要や参考書だってそうだ。流暢性は自動的に錯覚を引き起こす。無意識に錯覚が生まれ、復習や練習の必要性を正しく判断できなくなる。

 「同じ内容の勉強を2回するとき、勉強する間隔をあけると2回目の勉強が大変になるとわかっているので、間隔をあけるのは非生産的だと考えてしまう」ウィリアムズカレッジの心理学者ネイト・コーネルは私に話した。「だが事実はその反対だ。たとえつらいと感じても、間隔をあけたときのほうが多くを学ぶ。流暢性が判断を惑わせるのだ」(編集部注:学習間隔についてはこの連載の第1回を参照)

 だから、テストの悲惨な結果を「テストに対する不安」のせいにする。それ以上に、自分の頭が悪いせいにしてしまう。

 ビョーク夫妻が「望ましい困難」と呼ぶ原理によれば、脳の記憶を掘り起こす作業が大変になるほど、学習の力(記憶の検索と保存の力)が高まる。流暢性はこの方程式の裏返しだ。事実を簡単に思いだせるようになるほど、学習の力が衰える。勉強して覚えた直後に復習しても意味はない。記憶に何のメリットも生まれない。

 つまり、流暢性が生みだす幻想が、テストで平均点を下回る成績を招く主犯なのだ。不安のせいでもない。頭が悪いせいでもない。不公平が原因でも、運が悪いのでもない。元凶は流暢性にある。

テスト対策のスキルを高める
「自己テスト」

 この幻想から逃れ、テスト対策のスキルを向上させるにはどうすればいいのか。都合のいいことに、学習効果の高いテクニックがその最善策となってくれる。

 このテクニックは近年になって生みだされたものではない。義務教育が誕生して以降、もしかするとそれ以前から使用されている。哲学者のフランシス・ベーコンは、1620年にこんな言葉を残した。

 「本の一節を暗記したいなら、20回読むよりも、暗唱を試みて思いだせないときに本を開くということを織り交ぜながら10回読むほうがいい」

 そして1890年には、アメリカ心理学界の祖として知られるウィリアム・ジェームズもこんな言葉を残している。彼もベーコンと同じことを考えていたようだ。

 「記憶の奇妙な点で気になることが一つある。それは、受動的に繰り返されたことよりも、能動的に繰り返したことのほうが強く脳に刻まれるという点だ。たとえば、何かを暗記しようとしてほぼ覚えたと思ったとき、時間を置いてから記憶をたどって思いだすほうが、もう一度本を開くよりもいい。記憶をたどって思いだせば、次に思いだそうとしても思いだせるだろう。しかし、本を開いて覚えた内容を確かめれば、もう一度本を開かないといけなくなる可能性が高い」

 つまり、「覚えているかどうかをテストする」のだ。ややこしい論理に聞こえると思うが、自分の記憶をテストすることが、本番のテストでの成績向上につながる。

 侮ってはいけない。自分を試すことには、自分で思う以上の価値がある。テストは自分の力を測るツールとなるだけではなく、思いだす内容を修正し、それに伴い知識の整理の仕方を変える役割も果たす。それにより、後から思いだす力が格段に高まるのだ。(中略)

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ベネディクト・キャリー(Benedict Carey)

『ニューヨーク・タイムズ』紙サイエンスレポーター。 コロラド大学卒業後、ノースウェスタン大学大学院でジャーナリズムの修士号を取得。フリージャーナリストを経て、『ロサンゼルス・タイムズ』紙の記者として脳科学、医療、健康の記事を執筆。2002年にはミズーリ大学ライフスタイル・ジャーナリズム賞を受賞した。2004年より『ニューヨーク・タイムズ』紙の記者となり、神経科学、精神医学、神経学、日常の心理学を主なテーマとして活動している。読者からのメールがもっとも多い人気記者のひとりで、25年にわたって科学と健康の記事を書き続けている。

 

花塚 恵(はなつか・めぐみ)

翻訳家。福井県福井市生まれ。英国サリー大学卒業。英語講師、企業内翻訳者を経て現職。主な訳書に『決める』(ダイヤモンド社)、『世界トップ3の経営思想家によるはじめる戦略』(大和書房)、『米海軍で屈指の潜水艦艦長による「最強組織」の作り方』(東洋経済新報社)、『スターバックスはなぜ値下げもテレビCMもしないのに強いブランドでいられるのか?』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。


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「脳が認める勉強法」

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